みちくさの完成形

何か中大型の企画をまとめようと思います

西欧の鉄道を見にいった話

 大変ご無沙汰でございます。どうも、ひろせがわらと申します。ソーシャルメディアの利用がかつてほど頻繁でなかったため、それらに付随しているブログが完全になおざりとなってしまいました。特にお一方ブログ記事を大変楽しみにされている方がいらっしゃるのを認知しておきながら、様々な記事を書いては消し書いては消し、挙句遅筆が祟って書こうと思った記事すら執筆欲を失くしてしまう有様でありました。大変申し訳ない。

 

 さすがにこのまま放置しておくわけにはいかんよなあと頭の隅で考えていたところ、幸運にもユーラシア大陸の(日本列島から見て)果ての果てたる西欧を訪れる機会に恵まれ、また幸運にも多様な鉄道に見て乗って触れ合える経験を得ることができました。このうち皆様が比較的興味を持ちやすい交通関係に焦点を当てながら、この度“みちくさの完成形”第三本目の記事としてこちらをアップロードすることとしました。前回の記事より1年半が経過し、いろいろな文章や小説、論文や文書の執筆を経たために大まかな文体や仔細の表現や語彙が変わっているかなと思われますが、極力読みやすいよう努めているので、ぜひ読んでいっていただけると幸いに存じます。

 一応簡潔にまとめようとは思ったのですが結局ちょっとした本にできるくらいの分量になってしまいました。目次を設けておりますのでこちらも併せてお使いください。

 

 

0.事前準備(渡航ルート決定)

 欧州行きを決めるにあたって最初に迷うのが航路になります。日本から欧州へはおおよそ99%の人が航空会社の運航する航空便を利用する筈です(ロシアからの鉄路や大型船舶を利用した海路、プライベートジェットでゆく空路も無いことはないが、かなり奇特でしょう)。今回欧州へ出発するのは2月中旬であり、そもそも長距離国際線の閑散期です。またこの日程を決定したのは昨年の2023年中であるため、早期にチケットを購入することで割と安価に渡航できることが予想されました。早速航空券比較サービスにて運賃を確認しますが、やはり最も高くつくのはJALANAの和製キャリアによる直行便です。羽田や成田、または関空から乗り継ぎ無しで現地の空港へ降りたてる空路は、何よりもまず便利だと言えます。また乗り継ぎが無いことからロストバゲージ、所謂ロスバゲの確率が下がり、安心して飛行機に乗ることができます。さらにキャビンアテンダントは日本語を喋り(海外→日本便では搭乗時に「おかえりなさいませ」と乗客に告げることもサービスの一つとしてあるそうですしね)、不便を感じずに移動できることなど、優れている点が数多くあるため初めは日本の航空会社にお世話になりたいと考えていたものでした。ただしその代償としてチケットが最も高く、早期に購入したとしても航空券が25万円もする場合があり、この決断には苦しみが伴うものでした。

 あまりに高い直行便を回避すると、途中の空港で乗り継ぎをする経路が挙げられます。こちらは乗り継ぎ場所によって運賃が変わり、韓国や中国、中東などが経由地として有名でしょうか。場合によっては往復で13万円程度で済むこともあり、さすがに迷うところではありました。

 

 くそしょうもない(くそだけに)typoをしているのは置いておいて、果たしてどのルートを選ぶのかは予算を参考にしながら検討を重ねていました。大まかな日程をとりあえず決したことで正確な額を算出することができ、直行便が18万円、イスタンブール乗り継ぎが17万円、アブダビ乗り継ぎと仁川(インチョン)乗り継ぎがそれぞれ15万円と判明。

 

 適当にこしらえた図が見にくく(醜く)て悔しいですが、直行便の料金分を現地で使う方に回そうとなったことからこれら3つの乗り継ぎ経路から選ぶこととなりました。皆さんでしたらどちらを選ぶでしょうか?

 実際この選択肢たちが並ぶとほぼ一択のような気もしますが、選んだのはアシアナ航空仁川国際空港乗り継ぎ経路でした。やはり文化的に似ている韓国のキャリアであれば多少の安心感があろうという考えもありますし、何より3つのうち最も安価であるというのも決め手でした。また近いうちにアシアナ航空はライバル会社である大韓航空に吸収合併されることが決定しているため、一度くらいは乗っておきたいという交通オタクの性も影響していないとは言えません。かくして早いうちにチケットを確保した僕(ともう一人)は準備をしながら出発を待つのでした。

 

1.日本(出発日)

 普段の旅行であれば出発までワクワクしてしまい早く当日が来るよう祈るばかりなのですが、今回ばかりは実質初めての海外旅行ということでびくびくしていました。結局パッキングを始めたのは前日の午後で、多少の焦りがありながら準備を終わらせて出発の日を迎えています。

 

 同行者と落ち合ってから上野へ向かい、京成スカイライナーで成田空港へ乗りつけます。発車時刻になっても車内清掃が終わらないオペレーションに困惑しながら乗車した編成はスカイライナーのイメージキャラクターである中島健人氏がラッピングされた“KENTY SKYLINER”。この編成に限って特別に流される氏のアナウンスに笑わせてもらい成田空港へ到着したはよかったのですが、

 

氏の熱烈なファンの方々が次々にレスポンスをつけてくださるものですごい数のいいねを賜ってしまいました。圧がすごい。

 空港に到着してからは必要なものを少しばかり買い足し、外貨両替とチェックイン、大型荷物の預け入れを済ませて出国手続きを行います。まあ出国するぶんには国としてもそこまで制限をする理由が無いため、パスポートの顔写真ページを機械に読み取らせればすぐ出国となります。さすがは日本の玄関口たる成田空港、制限エリア内には免税店が多く設置されておりこれだけで異国情緒が感じられます。我々も出国前最後にラーメンを啜り、暫しの日本との別れを惜しみます。

 

 スープを飲み干すほど素晴らしく美味しかったのですが、今記事を書きながらレシートを確認するとしっかりと消費税がお代に含まれており横転。免税かそうでないかの線引きがよくわかりません。まあ旅行に突入してしまった段階では百数十円が税金として持っていかれても最早何も感じないというのはあります。

 ラーメンを喫食し終えると出発時刻の50分前となっていました。一般的に国際線では出発時刻の30分前が搭乗時刻として設定されており、ゆっくり搭乗口へ歩いて行っても余裕がある時間でしたが、今回は40分前の時刻が搭乗時刻として航空券には印刷されています。

 

 おそらく10分余計に設けられた搭乗時間は今回の機材が関係していると推察できます。航空マニアの方からすると常識なのでしょうが、この飛行機はエアバス社の製造したA380という全二階建てのものとなっています。かつて日本でも数多く見られたジャンボジェットことB747も二階建ての航空機として著名ですが、そちらは前方の一部のみが二階建てであり、それ以外の部分は一階建てとなっています。対するこちらA380は全体が二層構造となっており、かなりの数の乗客を乗せることが可能となっています。長めに取られた搭乗時間は大型の機材であることが理由なのかしらと思案しながら待つこと十数分、いよいよ搭乗と相成りました。

 今回乗るのは上部にあたる二階席でしたが、構造上一階席と比較して座席が二列ほど削減されています。記事内容を交通に特化させたいので途中の機内の様子等は省きますが、昔ANAの太平洋横断路線に搭乗した時と大きく違わぬ高レベルなサービスを享受できて大変満足のフライトとなりました。

 

2.韓国

 2時間と少し経過し、韓国にあります仁川国際空港へ着陸しています。入国審査を済ませて降りたフロアではK-POPアイドルのBLACK PINKさんがお出迎えしてくれていますが、生憎韓国の芸能には疎いので写真を撮ってスルー。今回は仁川で17時間の待ち時間が発生するので韓国の街並みを眺めにソウルへ向かうこととしました。ちなみに預け入れ荷物はバゲージスルーで依頼したため手荷物のみで身軽に韓国を見て回ることができました。仁川国際空港からソウルへは鉄道やバスがアクセス手段として存在しますが、電車ダイスキ!であるため迷わず鉄道を選択。

 

 空港アクセス列車のAREX(エーレックス)やソウル市内の足であるソウルメトロでは乗車券としての切符が存在せず、一回利用の場合でもカードを購入する必要があります。こちらは購入時に一度運賃とデポジットを同時に支払うこととなっていますが、下車駅でデポジット返却機にカードを投入することで超過分が返却される仕組み。デポジット返却機を乗車の度に探す必要があるのは少し面倒ですが、切符を発行するよりエコである点は良いですね。

 

 ホームに降りてきました。韓国の通勤列車はどこもフルスクリーン型のホームドアが整備されており、車両を外側から眺めることが難しいのが少し残念なものです。ところで海外の鉄道に乗車するのは恐らく人生初なのですがただ全く初めましてなのかというと少し難しく、6年前にアナハイムのディズニーリゾートにてモノレールに乗車しているためここでは“海外の通勤列車が初めて”と記載しておきたく思います。普段日本で電車をよく見ている者として海外の鉄道文化には興味があるため、どのような列車に乗れるのか期待が高まるところ。

 

 いざ乗ってみるとモケット敷のバケットシートにスタンションポール、広告モニターや吊り手など日本とあまり変わらない光景が広がっていました。天井のラインデリアもそっくりであり、清潔感のある車内環境は大きく違和感を持つものではありません。強いて言うなら写真にもある吊り手がバネで吊るされている点は初めて見るため不思議な感じがありました。なるほどやはり東アジアに存在している国だけあり基本的な構造は同じなんだなと納得。

 

 医療者のストライキのニュースをわざわざ日本語で書いて教えてくださりありがとうございます。大丈夫なんでしょうか。

 

 20メートル級4ドアの通勤列車だと本当にただ日本の電車に乗っているようで少し退屈もしてしまったのですが、1時間弱乗車してソウル駅に到着しました。海外鉄のはじめましてとしては十分すぎる満足度でした。

 

 ソウル駅周辺には高層ビルが並んでおり、ご飯を食べる場合は地下鉄に乗って繁華街へ移動しなくてはなりません。ソウルの地下鉄も日本の地下鉄と雰囲気が似ており大変面白い。ただフルスクリーンのホームドアやモケットの無いガチガチの座席等は日本では見られない特殊なものでしょうか。近隣国の鉄道は日本と比較して見えてくる小さな差異を楽しむのがよさそうです。

 

 形式の数字がデカすぎて笑ってしまう(これが311000系と言うらしい)。

 

 ちなみに夕食はサムギョプサルです。大変おいしかったですね。

 

 明日乗る飛行機は朝8時に出発するため、韓国で一度夜を明かす必要があります。夕食後はソウル随一の繁華街、明洞を歩きながら観光と相成りまして、ソウル駅23時前の空港行き列車の発車まで時間をつぶします。

 

 ちなみにソウルは地下を走る鉄道の他に優先/専用レーンを走るバスが移動の足として大活躍しています。乗り方が難しいことや今回地下鉄で行ける場所が基本的な目的地だったことから乗車はしていませんが、道路の中央部分をかっ飛ばすバスは一見の価値があるでしょう。日本にもこのレベルのBRTが整備されたら嬉しいものですが...

 

 ソウル駅に帰ってきましたが、地上ホームから出る長距離列車の案内によるとこの時間でも多くの列車が発車していくようです。ちょうど時間に余裕もあったため少し眺めていくことに。

 

 ターミナル駅としての風格を持つソウル駅の長距離列車用ホームは、夜遅い時間でも忙しなく列車が出入りしています。鉄道の起点を示すポストが韓国版高速鉄道KTXを模しているのも可愛らしいですが、個人的には右上のムグンファ号が大変魅力的に見えました。水曜どうでしょうがお好きな方は聞いたことがあるかもしれませんが、軍団がソウルから全州(チョンジュ)まで立ち席で乗車していることからこの名前も一定の知名度があるでしょう。もはや日本ではとっくの昔に全廃した客車牽引列車の定期運行が近所の国で見られることが感動的です。ご飯のおいしさもさることながら、このムグンファ号を見た場面が最も“韓国に来てよかった!”と思えるところだったと言い切れます。

 

 仁川国際空港への帰りも行きと同じくAREXに乗車しますが、先ほど乗った“一般列車”は各駅に停車しながら走る一方で今度乗る“直通列車”はソウル駅から仁川国際空港までノンストップで行くという爆走ぶり。途中駅に存在する金浦(キンポ)国際空港すら通過してしまうほどのスピードを誇るため所要時間は一般列車よりもかなり早い45分となっています。また途中駅での乗降を無視できるため車両はドアを2つ備え、その間には簡易リクライニング機構を備えたクロスシートが並びます。直通列車の場合改札機が別で用意されており、わかりやすくオレンジ色に塗られた改札を通ることとなります。ちなみに2枚目はAREXのマスコットキャラクターらしい。一応左が直通列車を、右が一般列車を表しているようですが、直通列車はキャラクターの通りの青車体にオレンジ帯からオレンジ色の車体に白帯を纏うデザインに変更されているため微妙にチグハグになっています。

 

 車内の案内表示は多言語対応が済んでおり大変利用しやすい感想を持ちました。カンイリクライニングとはいえちゃんとした座席に座って45分も乗るのにこの列車の運賃は驚異の1000円強というのがかなりの驚きです。また通勤型チックな一般列車であれば450円程度で仁川国際空港からソウルへ移動できるとあり、そこにも韓国の強さが見え隠れするようでした。ただ韓国の鉄道は赤字に苦しんでいるという話もあり、ただのジリ貧状態であるとも考えられてしまうのですが...

 

 帰ってきた仁川国際空港は23時半頃。ここは埋め立てて海上につくられているため24時間の離着陸が可能という驚きのタフさが特徴です。我々もどこかホテルに宿泊してフランクフルト行きの出発を待ってよかったのですが、ヨーロッパとの時差を考えた結果ロビーで徹夜して朝を迎えることとしました。タフな空港にはタフに立ち向かっていかん(?)と思い徹夜を決めたわけですが、同じようなことを考える人間は多いのか我々以外にもロビーのベンチで夜を明かす人は少なくなさそうでした。

 

 出発ロビー付近には思いの外ベンチが多くなく、結局ターミナルから少しばかり離れたAREXの改札口付近を塒としました。コンセントの用意もあるため、僕と同様に宿代を浮かしたい方はご参考にしていただければと思います。

 

 韓国焼酎のチャミスルを口の中でお茶と混ぜ、お茶ハイにして飲み、時が過ぎるのを待ちます。本当はスモモ味のチャミスルを買いたかったのですが、ソウルのコンビニには販売がなかったため仕方なくお茶で割っていました。

 

 酒を飲むだけでは飽きてしまうため前年末にコミックマーケットで手に入れたフォロワーの新刊を読んだり、VPNをわざわざ契約して3rdアニバーサリーを迎えるウマ娘アプリが旅行中にもプレイできるようにしたりし過ごしています。

 

 なんでだよ(困惑)

 

 同行者は途中まで談笑に付き合ってくれましたが、前日あまり眠っていないらしくしばらくすると寝てしまいました。時差ボケは大丈夫なのでしょうか。

 

 礼拝中か???????

 

 異国の空港で硬いベンチ座りながら一夜を明かすのもいい経験だよな~と思いながら、途中ターミナルに戻って買い物したり探検したりしている間にも時間は過ぎ、気づけば6時前となっていました。さすがに眠いところでしたが短い滞在だった韓国に別れを告げ、出国審査へ向かいます。40分くらいかけて手荷物検査と出国審査を済ませ、いよいよヨーロッパに。

 

 東アジアのハブ空港という別名がつくことも否定のしようがない巨大さに圧倒されっぱなしです。また清掃も行き届いており、利用は快適そのものと言って差し支えありませんね。

 

 最後にシャワートイレを...と思いトイレに入ったもののどのボタンを押しても全く動きません。貴様?余を愚弄しているか?

 

 フランクフルトまではA350が担当しています。国際線らしく通路が2つある設計で機内も広いのですが、仁川からは14時間もかかるため果たして飽きないかどうかが大きな心配です。窓際に座れたはいいものの、どれほど疲れるのか不安になりながら搭乗するのでした。

 かくして韓国を離れましたが、正直今まで来ていなかったことを後悔するくらい楽しかったことは間違いありません。韓国は第二外国語で日本語を履修する人が多いため日本語が通じる場所も多く、また英語でも問題なく話は通じます。韓国や台湾が初心者向け海外としてよく挙げられますが、国内旅行を多くしている方もぜひ韓国を訪れてみてはどうでしょうか。食事も日本と大きくは違わないため、訪問のハードルが低いこともお勧めの理由です。ヨーロッパに行く前に海外の練習として韓国を経由しましたが、次は韓国旅行として2泊くらいしてもいいなと考えるくらいでした。また次回はもっと鉄道を深く掘り下げたいものですね。

 

3.ドイツ(1)

 機内で寝て過ごせば結構すぐ着くもんだろ!と高をくくっていましたが、いざ乗ってみると全然眠くない!一応一回目の機内食が提供された後には窓のブラインドを下げ、消灯して搭乗客が仮眠を取れるよう配慮がなされるのですが、結局1時間寝て目が覚めるのを三度繰り返すのみとなりました。ただ眠れないのに目を瞑っても僕は疲れてしまうため、仕方なく機内コンテンツで暇を潰すこととしました。僕の愛して已まないトム・クルーズ氏の最新映画、“Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One”(長い)がモニターで見られるということだったため見ましたが、結局14時間の飛行中の2時間が潰れる程度でやはり見終えると大変な退屈。困りましたが当然降りることもできないため、最後はひたすらサカナクションを聞きながらボーっとしていました。せめて機内wi-fiが使えればそれで暇を潰せたのですが、使っているiPhoneとの相性が悪いのかネットワークにつなげることもできなかったのが痛いところでしょうか。

 

 暇すぎてしぬかと思いましたが無事五体満足でフランクフルト・アム・マイン空港へ到着しました。ちなみに正式名称に含まれる“アム・マイン”とは“マイン川沿いの~”という意味。同名のフランクフルトとの区別のために“アム・マイン”がつけられているらしく、イメージとしては武蔵小金井のような旧国名付きの駅名が似ているでしょうか。

 仏頂面の警察官に入国審査を頼んでパスポートを投げられた時はさすがに驚きましたが、成田から35時間でようやくヨーロッパに到着しました。またここの空港では一旦制限エリアを出てからバゲージクレーム、預け荷物受取り所へ行くこととなっており、何とも不思議な感じです。というかこれでは到着した人以外でも荷物を盗みにバゲージクレームへ侵入できてしまうのでは...

 到着したら既に現地で留学生として頑張っている同期が空港へ迎えにきてくれる手筈ですが、探しても全然見つかりません。どうしたのかな~何してるのかな~と思っていると、

ドイツ鉄道、Deutsche Bahnの運行する電車が100分以上遅延しているとかいうクソ理由で到着が遅れているそうです。僕が乗る前からダイヤを大きく乱して迷惑をかけるドイツ鉄道の凄まじさには脱帽です。しかも空港へ向かうために乗り換える必要のある駅を勝手に通過したらしく衝撃。結局一時間半遅れて彼とは落ち合いましたが、前途多難であるなと感じずにはいられません。

 

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 鉄道の乗り場へ行きまごつきながらも券売機を操作して切符を買っていると丁度ホームに列車が到着していました。重たいスーツケースを引っ張りながらなんとか乗り込んだのはS-bahn(エスバーン)という列車です。S-bahnは主にドイツ圏でよく見られる列車であり、特に都市部を中心に走っているため比較的目にしやすいと言えます。このS-bahn、よく京浜東北線に例えられますがこれは言い得て妙。都市の中心から放射状に伸びる幹線を走り、途中では専用に設けられた駅に停車して地域住民の足となる運行形態は確かに東海道線と並走しながら新子安北浦和に停まる京浜東北線と似ているようです。ただ似ているというのは路線の性格の部分であり、車両に目を移すとボックスシートがひたすら並べられています。吊り手も存在しないですし、日本ほど乗客の多くない西欧ならではの車両レイアウトであるように感じました。

 

 2駅4分でStadion駅に到着しました。駆け込み乗車にならない程度に急いで乗ったので車両のエクステリアを見られなかったのですが、なかなかスマートで良いデザインに見えます。特に前面にある上部から下部へ段々とすぼまっていくラインなどはJR東日本E233系電車に似ているようです。この車両はBaureihe 430、430形といい、S-bahn向けとしては最新系列ということとになっています。

 

 今回は同期の住まう部屋のあるマンハイムという街へ行き、そこを拠点とすることとしています。適当な路線図を拵えましたが経路としては空港からフランクフルトの中心部へ向かい、乗り換えてREという列車でマンハイムへ向かうものが主流です。だからStadion駅でS-bahnを降りたんですね。空港駅から乗ったS-Bahnが京浜東北線であるならばREは宇都宮線高崎線と言えばわかりやすいかもしれません。REは略さず書くと“Regional Express”となり、主に都市と都市の間を結ぶ役割を果たしています。

 ちなみに路線図を見ていただくとHbf(中央駅)と書いてあるのがわかるでしょうか。Hbfを略さずに書くと“Hauptbahnhof”となり、それぞれ“Haupt”が“主な/頂点の”、“Bahn”が“鉄道”、“hof”が“ヤード”を意味しています。このうち後ろふたつがつながった“Bahnhof”が“鉄道駅”となり、これに“Haupt”が結合して晴れて“中央駅”という意味を持つようになります。読み方はアナウンスを聞くに“ハウプトバーンホフ”でしょうか。欧州の特にドイツ周辺を鉄道で移動するときは必須、というか当たり前のように使われる単語なので嫌でも覚えてしまうことでしょう。

 

 乗り換え先のRE70 Mannheim Hbf(マンハイム中央駅)行きが発車標に出ていますが、少し様子が変です。何やら時刻が2つ記載されていますね。こちらは平常時は左の時刻しか出さないのですが、遅延が発生すると右に小さく遅延を加味した発車時刻を追記することとなっているようです。確かに迎えの者が遅延で一時間半遅れて姿を見せましたし、逆方面の列車も遅延しているというのは合点がいきます。早速ドイツに来て列車遅延か~とは思いましたが実はあまりダメージは大きくありませんでした。というのも...

 

ここStadion駅周辺がドイツ国内でも有数の鉄道ジャンクションであり、たくさんやってくる列車を眺めることができたからなんです!世界に誇るドイツの高速鉄道ICEや近郊列車RE、それに長い貨物列車を牽引する機関車などがひっきりなしに通過するため当然テンションは爆上がり!特に4枚目の機関車は旧西ドイツ国鉄時代に製造された機関車であり、かわいらしさと力強さを併せ持ったデザインに思わずやられてしまいました。今まで本やネットでしか見ることのできなかった憧れの車両たちが目の前に次々に現れると喋ることができなくなるんだなと実感いたしました。

 

 夢中で写真を撮りまくっていましたが、結局発車標に表示されていた46分には列車が来ず、そこからさらに10分ほど経った57分にやっと到着しました。車両はBaureihe 446(446形)といい、大量輸送を行うために全車両が二階建てというなかなかえげつない構造をしています。Maxの愛称で親しまれたE1,E4系も東京近郊を走っていた215系も引退してしまった昨今の日本ではオール二階建て列車に乗る機会もめっきり減ってしまいましたが、ここドイツを始めとした西欧各国ではこのような列車が未だにバリバリ現役で活躍していますし、新たに製造される車両も少なくないというのが大変新鮮なものです。

 乗車前には行先と種別を確認する、というのは普段していますが異国の地となると列車を間違えた時の焦り具合も半端ではなくなってしまうため用心深くチェックしますが、ちゃんと前面に“RE70 Mannheim Hbf”と出ているため間違いありません。

 乗車してみると案外広いなという印象を受けました。車幅は日本と同じ2.7メートル程度ですが、車内はガラスを用いて開放感を演出しているためかそこまで窮屈には感じずなかなか悪くない。写真が無いのが悔やまれますが、壁や天井が白く塗られていると同時に乗降扉がDeutsche Bahnのイメージカラーである赤に塗られているため視覚的にも出口がわかりやすくなっているのもポイント。しかも100km/h以上の快速で走る割にはそれほど列車が揺れることもなく、遅延の影響でか座席がすべて埋まっており出入口付近の狭いスペースで大きなスーツケースをホールドしながら立つ必要があった以外は完璧。ドイツの鉄道も舐めたもんじゃないな~さすがは先進国だな~と考えていました。ただ車両はいいものの列車の状態はというと段々と雲行きが怪しくなっています。フランクフルト-マンハイム間には線路との合流・分岐地点が数箇所あるのですが、それらに近づく度に機外停車、信号待ちのためドアも開けずに停まっているようになってしまいました。

 

 案内表示モニターには本来の到着時刻が表示されているようです。果たして駅名を何と読めばいいのか見当もつかないのですが、右上に示されている現在時刻から察するに左に並んでいる時刻はもはや真っ赤なウソと言ってもよいでしょう。でもまあ乗車してしまっていますし、急ぎではないので乗ってれば目的地まで連れて行ってくれますから遅れを増大しつつある列車の中でまったり過ごしていましょう。

 

 ん?????突然案内表示が正確な時刻を記載するようになったかと思いきやなんだかめっちゃ不穏なことを言い始めています。一番上の“Biblis Mannheim Hbf”の部分にしろ下半分のBiblisから先のバツ印にしろ、この案内から察するにおそらくこの列車は途中で運転を打ち切るようです。なんだそれ。

 

 Biblis(ビブリス)はマンハイムから20キロくらい北にある町。よりによって到着目前で梯子を外される羽目になるとは予想だにしておらずさすがに狼狽えています。DBことドイツ鉄道は運行が酷いとは散々聞いていましたがまさかここまでとは...

 

 Biblisで全員降ろされてしまい、ここから南に向かっていた人たちでホームはごった返しています。乗ってきたREはFrankfurt Hbf行きと表示を変えているためどうやらここで折り返し運転を行って遅延をなかったことにするようです。2月の寒いドイツの田舎町に大量の乗客を放置してね!

 

 2月下旬のドイツ南西部はそこまで寒くないのですが、ビュービュー吹く風が容赦なく待っている人々の熱を奪います。

 

 その風というのも自然が生んでいるものであればまだ我慢できるのですが、それがICEなどの優等列車の通過で生まれる風なのが大変苦しいところ。車内ではエアコンが効いて暖かいのに(夏は冷房がぶっ壊れるためこの限りではない)駅で待っている人には冷たい風を浴びせて攻撃してくる畜生具合、何たる屈辱なのでしょうか。

 

 くそさむい中で40分待ってやっと続行のREが到着。一時間に一本は走っている筈ですが最早運行頻度など参考にならないレベルのダイヤ乱れであり、乗れればラッキーと考えた方が早いかもしれません。

 

 25分ほどでようやっとMannheim Hbf、マンハイム中央駅に到着です。本来の予定より2時間も遅れて着くとはさすがDB、初日にして欧州の鉄道の洗礼を受けさせてくれてありがたいものです(やかましいわ地域の列車もちゃんと走らせてくれ)

 

 マンハイム中央駅からはStraßenbahn(シュトラセンバーン)に乗ります。StraßenがStreetだと考えればさしずめ“路面電車”と訳して問題はなさそうですのでつまりトラムということになります。それで上の写真をご覧いただくと編成の長さが気になるかと思うのですが、これどうやら5両編成を2本繋いで10両編成のトラムを走らせているみたいなんです。この豪快な交通輸送はヨーロッパでしか見られませんし圧巻です。日本でもGreenmover同士が連結して10両で宮島口まで乗り入れないかな...

 

4.ドイツ(2)

 昨晩はビールを飲みながらケバブを食べて最高でした。何せドイツはビールがすごく安い!ロング缶サイズが100円くらいで買えてしまうため飲まない手は無かろうと言えます。結局昨日は機内であまり寝られなかったため独式晩酌を済ませたらとっとと寝てしまいました。とっとと身支度を済ませて再度街へ繰り出すこととします。

 今日は生憎の雨ということで荷物を濡らさないように路面電車の停留所へ向かったはいいものの...

 

ざらしにしていいのかなあと思っていた自動券売機が雨でやられてしまい切符が買えないとかいう意味不明トラブルに。さっさと中央駅に行って予約の列車に間に合うようにしたいのですがウンともスンとも言わない券売機。ヨーロッパではバスやトラム、地下鉄や高速列車に至るまでが基本的に信用乗車方式を採用しています。特にバスやトラムは車内での運賃授受を行わないため、乗客が乗車前に自分で切符を買った上で車内の打刻機で切符に乗車時刻を記すようになっています。そのために大抵の停留所には自動券売機が備えられているようなのですが、これでは切符を買えずキセルするしかなくなってしまいます。

 

 後になって修理のおっちゃんたちがやってきて何やら中身をいじくっていますがそれでもいつ作業が終わるかは分からない状況。仕方ないので今回はスマホのアプリから切符を購入して乗車しています。DX化の波はこっちの方にも来ているんですね~といった感じ。

時間に余裕を持っていたため1時間前にはマンハイム中央駅へ着きました。スーパーで買ったパンを食いながら列車を待ちます。

 

 オーソドックスな感じのS-bahnがいれば...

 

 真っ白な車体にS-bahnのシンボルであるSマークを大きくデザインした前衛的なS-bahnもいます。色も奇抜ですが果たしてこんなサイズの前面ガラスで視界は確保できるんでしょうかね...?

 

 ちなみに予約列車は既に遅延しています。10分程度であれば特段問題にはなりませんが朝一から遅延を抱えて走っているDB、さすがの貫禄でしょう。

 

 乗車するICEが到着しました。ICEシリーズは大まかに分けて種類が6つありますが、こちらは運行中のものでは最新シリーズであるICE4となります。最高速度が250km/h程度に制限されているものの様々な組成が可能であり、経済性に重点を置いた系列であると言えます。

 

 ただ難点を挙げるとすれば正直かっこいいとは言い難い前面デザイン。予測変換の一番上に“ダサい”なんて書かれるのはちょっとかわいそうな気もしますが、この評価はドイツ国内でも同様によく言われているのだそう。元来ICEはどのシリーズも曲面を上手に用いてスピード感と親しみやすさを同時に感じられるデザインが魅力であっただけになんか違うなとなるのも正直わかるのですよね。

 

 でも乗ってしまえば外観なんてどうでもよいかもしれません。車内はICEに伝統の白い壁に暗い色の座席。所々に木目の意匠を取り入れてシックながら温かみのある雰囲気を醸成しています。やはりドイツは工業製品のデザインが大変上手ですね。

 

 座席は一見薄そうに見えますが実際は深く掛けても硬いような感じはしないし、上部の両側が前へせり出しているおかげで少しばかりプライバシーも保たれるようで結構有難いものです。同時に通路の反対側には大型荷物スペースがありますが、これが車内中央部にあるため盗難のリスクを減らすことに成功している点には膝を打ちました。

 

 しかも最高速度が他のものと比べて控えめではあるとは言え速度には申し分がなく、電車方式を採用していながらも会話ができるほどの静粛性を持っている点は素晴らしいでしょう。西欧に多い丘陵地帯を高速でかっ飛ばす体験はなかなか面白いものでした。

 

 遅延が回復することは無かったものの増大することもなく到着したのはドイツ五番目の都市シュツットガルトにあるStuttgart Hbf(シュツットガルト中央駅)。駅の改良工事を行っている最中らしく奥には大量のクレーンたちが見えています。

 シュツットガルトにはメルセデスベンツの博物館があるため訪問しましたが、ドイツ国内での超一大メーカーとして名を馳せているだけあるな、と感じられる巨大さに圧倒されっぱなしです。

 

 くるまがいっぱいあっておもしろかったです。

 博物館見学を終えて市街地へ戻るとたくさんのベンツ車が行きかっています。ベンツがドイツに深く浸透しているんだなというのを実際に見て理解できるとなかなか面白いですね。

 

 日本でも連接バスでおなじみシターロがいます。例えば日本の事業者が連接バスを導入するとなるとバスの界隈はお祭り騒ぎになるわけですが、当然のように連接バスが走っているこっちの国では考えられないことなんでしょうか、ちょっとしたカルチャーショックを受けた気分。

 ちなみにさっきはベンツ博物館までS-bahnに乗車しましたが、S-bahnは都市中心部と少し離れた地域とを結ぶJRのような役割を持っているため、都市中心部の中を移動するためには別の交通機関が必要となります。

 

 そこで活躍するのがこちらのStadtbahn。シュタットバーンと読むこの列車は、車両が2両編成ととても短く、トラムのようにも見えるのですが写真の通り走行しているのは地下区間。ライトレールの一種として案内されることの多いStadtbahnは街の中心から少し外の部分は地上を走行しながらも、人や車の集まる中心部では地下に潜ってトンネルを走るというトラムと地下鉄のいいとこ取りのような輸送システムとなっています。ただ実際は純粋な地下鉄であるU-bahn(ウーバーン)とほぼ同一(ドイツだけに)のものと見做されることが多く、乗った感想としても地下区間のある路面電車といった感じでした。市内を移動する際はStadtbahnかバスを使えば小回りを利かせながら自由に動けますから、ドイツの大都市を訪問する際には大変便利な交通機関でしょう。

 

 シュツットガルト中央駅は先ほども触れたとおり工事中ですが、旧駅舎は残っています。これが駅名など一切書かずDBのロゴだけ掲示する力業でなかなか強いものですね。

 

 おもしろラッピング広告です

 今日は夜中にシュツットガルトから移動するので早めに中央駅に来ており、同行の2人が待合室で目を瞑って休んでいるのをよそに電車撮影を再開します

 

 初代ICEことICE1が停車していました。このICE1と短編成バージョンであるICE2はどちらも動力集中方式であり、写真に写っている先頭の機関車が列車全体を引っ張るものです。これがドイツの高速鉄道の礎とも言えるだけにこの列車を目の当たりにできたことは感激です。E1系とも雰囲気の似ているシンプルな流線形もよいですし、やはりずんぐりむっくりしているようなこの車両が300km/hに迫るスピードで高速新線を爆走するというのも大変興味深いものです。

 

 嬉しそうにDBロゴと一緒にセルフィーを撮るhirosegawara765の写真もあります

 

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 ようやく我々の乗る列車が推進運転でホームへ入線してまいりました。この機関車はユーロスプリンターといい、ヨーロッパの鉄道の様々な規格に対応している万能機関車です。前面に書いてあるロゴはÖBBことオーストリア連邦鉄道のもので、オーストリアの機関車がドイツ国内へ足を伸ばしてやってきている状態です。特にオーストリアの持っているユーロスプリンターはタウルスという相性がつけられており、その名前だとピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。まあ我々は機関車に乗るわけではないため客車に目を移すのですが、

 

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この暗い色をしている客車は...?

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Nightjetと書いてあります。Nightjet(ナイトジェット)というのはオーストリア鉄道が運行している夜行列車ブランドであり、今回は客車牽引の夜行寝台列車で移動することが叶いました!最後のブルートレインである北斗星号が運行を終了したのが10年弱も前という事実がなかなか衝撃的ですが、日本で乗れなくなってしまった寝台客車列車は欧州では健在であり、しかも近年は再度拡充の方向へ向かっていると言いますからとても素晴らしいことです。

 

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 寝台はコンパートメントの三段となっており、通路との間にドアがあることを除けば開放B寝台とほぼ同じです。ポーカーの結果僕は一番上の寝台を使うことになりましたが、上下に三段のベッドがあるため当然天地方向のスペースはあまりありません。また電源コンセントが最下段のベッドの窓際にあり、一般的な1mのケーブルでは届かないというのも困るものでした。2mのモノを持って行きましたがまさかここで役立つとは。

 

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 ちなみに夕食はスーパーで購入したお寿司です。ロールが6つ入っていて価格は500円程度と日本の感覚ではお高めですがまあコメ食の文化圏ではないしと思い興味本位で購入、したのですが...

 

これが全然おいしくなくて衝撃!醤油は少し色が濃くもちゃんと醤油らしい味をしているのですが、機械で極限まで圧縮したかのようなコメに正体のよくわからないネタ、さらには今時よう見ない絵の具で着色したかのようなワサビという布陣で予想のマズさを大きく超えてきました。一皿110円の回転寿司チェーンが近頃力をつけてきていますが確かにおいしい寿司を出してくれることを考えれば十分褒められるものでしょう。海外旅行中に日本食が恋しくなっても我慢した方がよいというのは僕の言葉です。

 

 よくわからない寿司をビールで流し込んで食事を終わらせたので、軽く車内探検といきましょう。我々の乗っている寝台車両は片側に通路が寄せられていて、ベッドのある部屋、クシェットの入口に引き戸がある設計になっています。昨年乗ったサンライズと比べても雰囲気は違っており、古き良き夜汽車のイメージが現代にも残っているようでとても興奮してしまいます。

 

 隣の車両にはシャワールームがあります。列車内ということもありそれほど広いわけではないのですが、なんと列車の乗客は誰でも自由に入浴できるようになっています。車掌からシャワー券を買う必要が無いというのもすごいのですが、どの等級に乗っている乗客もオッケーというなかなかの太っ腹具合です。列車自体はシュツットガルトが始発ですがどうやら乗客全員がシュツットガルトから乗車するわけではなく、現段階では車内の人の数もまばらなので今のうちに入浴してしまいます。



 こっちの国々にありがちな全身用ソープです。BergamotだのJasmineだの書いてありますが実際は別に匂いのしないシャンプーであり、洗えてるだけまだマシかなんて思えてしまう代物になっています。でも揺れる車内で好きなタイミングにシャワーを浴びることができるのは大変助かるもので、サッパリした状態でベッドに横になることができます。

 

 身体をポカポカにしてからシーツを敷き、寝台に寝転がっているhirosegawara765の図です。ここでは脚を折り曲げていますが、膝のすぐ先に天井が迫っていることから天地方向のクリアランスが大変狭くなっていることが伝わるかと思います。ただそれだけならよかったのですが、実は脚を伸ばすとベッドの端に足がくっついてしまいます。一応僕は山田哲人選手くらいの背丈をしているのですが、僕でこのくらいであればもっと身長の大きいアングロサクソン人はどうなってしまうのでしょうか...?

 

 かわいいね。

 

 ブランケットにはNightjetのロゴが刺繍されておりとても嬉しいものです。ちなみにこのブランケットはÖBBの公式サイトにて3,200円程度で販売されていますが、果たして日本に送ってくれるのかは不明であるため入手困難なのが残念なところです。モコモコで温かかったのだけどな...

 くっちゃべっていると時間も過ぎ、気づいたら23時を過ぎているところでした。半個室のようになっているため灯りは自由に点けたり消したりできるのも便利です。室内を消灯すれば忽ち眠くなってきたため眠ることとします。起きたら今までとは別の地域にいるのも夜行寝台列車の醍醐味ですからね。

 

5.オーストリア

 3時間ほど寝たころでしょうか、部屋の明かりが再度点灯し、物音が聞こえてきて目覚めると同じクシェット内の乗客が乗ってきたところのようです。

 

 時刻は午前2時で、ドイツ国境と数キロも離れていない場所にあるオーストリアの都市、ザルツブルクに着いているようです。オーストリアでは4番目に大きな都市であり、モーツァルトの生誕の地であることや、それを記念して夏に催されている世界最大規模の音楽祭から名前を知っている人間も少なくないかなと存じます。

 またこの列車は停車中のSaltzburg Hauptbahnhofは街の中心駅であると同時に今乗車している夜行列車たちの重要地点でもあります。東側の国境に鉄のカーテンが存在したことからもわかる通り、オーストリアは東欧から西欧への玄関口なのですが、交通の要衝という一面も併せ持っています。夜行列車に力を入れているオーストリア連邦鉄道はこの地理条件を生かし、周辺国の様々な都市からやってきた列車たちを大きな駅へ集め、ここで列車を組み替えるという変わった運行を行っているのです。例えば日本でもブルートレインの再末期には東京から九州方面へ富士号とはやぶさ号が、京都・大阪から九州方面へなは号とあかつき号が併結して走り、九州上陸後に解結して目的地へ向かう運転方式が採用されていました。しかしÖBBの運行する夜行列車では解結をした駅で別の地域から来た列車を連結して運転を再開するという、ものすごくアグレッシブな方式となっているのです。

 

 今回乗車した列車に関係のある列車らのルートをまとめてみましたが、なんだかよくわからないことになっています。僕が乗車しているのは太く黄色い線で示した[NJ237]ですが、始発地シュツットガルトから伸びている線は他に3つございまして、つまりシュツットガルト発車時点ではいわゆる四階建てのすごい多層建て列車ということになっています。停車中のザルツブルクではここまで繋がっていた3つの列車とはお別れになりますが、同じタイミングでオーストリアの首都ウィーンからやってきた黄緑色の[NJ40466]という列車と併結して一路ヴェネツィアを目指すこととなっています。乗車している列車と直接関わる分割併合はこのくらいのものですけれど、例えばブダペスト行き[EN50237]はザルツブルクで併結した編成の一部を1時間後に到着するリンツでパージしてその車両がプラハ行きになるなど、複雑な組み換えを行っていることが理解できます。というわけで乗車中のヴェネツィア行き[NJ237]はここザルツブルクに1時間弱停車し、順次解結と連結を済ませることになります。他の乗客の就寝準備で少し起きたにすぎなかったため、己の足ではオーストリアの土を踏むことなく通過するだけとなりました。

 

6.イタリア(1,ヴェネツィア)

 その後幸運にも目覚めることなく眠っており、起きたら6時前となっています。最上段のベッドからは車窓の眺めが絶望的ですが、どうやらイタリアに入っているようです。独墺伊の三ヶ国はEUにもシェンゲン協定にも加盟していることから国境を跨ぐ移動は自由となっており、国際列車ながらパスポートのチェックなど無しにただ寝ている間に別の国に入国しているというのは島国日本の人間としては大変不思議な感覚がありますね。そういえば乗車前の段階では“Trenitalia”ことイタリア鉄道がストライキを予告していたのでちゃんとアドリア海まで連れて行ってくれるのかな、と一抹の不安がありましたが無事走ってくれておりよかったです。シュツットガルトを発ってから9時間半、600kmほど移動してきたことに。表定速度は65km/h程度ですが、連結作業のためにザルツブルクに長時間停車していたことを加味すると飛び抜けて遅いということもありません。むしろ到着が早すぎてもゆっくり寝られませんし、遅いくらいがちょうどいいかもしれませんね。

 

 暗い部屋に外からの光が差し込み明るくなる感じ、なかなか悪くない。

 

 7時くらいでしょうか、車掌さんがガラガラとドアを開けていらしたので何かな~と思い目線を合わせるとなんとびっくり、朝食のパンとコーヒーを提供いただきました。どこまでサービスが良いんでしょうかこの列車は...

 パン用のバターとジャムもちゃんと用意されており、ナイフで掬ってつけて食べるとこれが何ともおいしい。小麦をメインで食べている人々の国ではやはりおいしいパンが出てくるものなんですね。寝台で胡坐を掻く...ことはスペースの関係でできないので、上体を少し縦にする体勢で車窓に流れる地面を眺めながらパンとコーヒーを貪ります。

 

 ちなみに速度はこれくらい。直線だからというのもあるかもしれませんが、あまり揺れることもなく滑るようにイタリア北部の畑地帯を走っていきます。

 朝食を食べ終わるタイミングで同行の連中も起きてきたようで、出していた2段目の寝台を再度折りたたんで1段目を座席に戻して座ります。そうするとさっきまでは見られなかったイタリアの景色のよく見えること!

 

 落書きがされすぎているとおもいます。

 

 コーヒーを飲みながらボケーとしていると、終点の一つ前であるVenezia Mestre駅に到着しました。列車はこのまま走り、終点はVenezia Santa Lucia駅へ向かっていくことになります。

 

 ヴェネツィアにはユーラシア大陸であるイタリア本土側と、水路が発達していて一般的に水の都として知られているヴェネツィア本島側のふたつが存在しています。前者のうち、ヴェネツィア本島と結ばれている地域がメストレ地区であり、鉄道の駅もメストレ地区とヴェネツィア本島とに一ヶ所ずつ設けられています。この列車は先に商業の街であるメストレ地区に停まり、そして終点のヴェネツィア本島の駅へ走るルートを採っています。

 

 メストレ地区とヴェネツィア本島を結ぶ橋はそれなりに大きく、線路と道路が並んで整備されています。湾内とはいえ列車が海の上を走る姿は何とも素敵です。それと同時にヴェネツィアに対する期待も高まるところであり...

 

列車は終点のVenezia Santa Lucia駅に到着。Futuraで書かれた駅名標のイタリアらしさがなかなかアガります。

 

 牽引の機関車は相変わらずタウルスですが、番号を見るとどうやらシュツットガルトで見たものとは違うようです。まああんな連結と解結をしていれば同じ機関車であることの方がおかしいのですけども。

 

 nightjetにお別れをして駅を出ると大きな運河が!今まで様々な本やサイトで見たことはありましたが、実際に自身の目で見ると圧巻のあまり「うわ~~~~」だの「すっげ~~~~」だのしか言えなくなってしまいました。自動車が道路を走っているのと同じような感覚で様々な船が行き交う光景はなかなか衝撃的です。

 とりあえず本土側のメストレ地区にある宿へ荷物を置きに行き、再度ヴェネツィア本島へ戻ります。

 

 電車がイカツすぎて笑うのですが、これは日立が製造した車両。前面がここまでくの字に折れ曲がっている電車を今まで見たことがありますか???

 10分ほどの乗車で再度Santa Lucia駅へ戻ってきました。Santa Lucia駅はヨーロッパで主流の頭端式のホーム構造であるため、様々な列車が長時間停車しており車両の観察にはうってつけになっています。

 

 僕が冗談抜きで世界一カッコいいと思う車両も見放題になっています。さすがに興奮しすぎて心拍数が爆上がりしてしまいました。

 

 爆上がりしていました(再現)

 

 長くならない程度に車両の紹介をさせていただきたく存じます。こちらはTrenitaliaの高速鉄道ブランド“Frecciarossa(フレッチャロッサ)”のフラッグシップ車両として供されているETR1000(ETR400)という電車です。Frecciarossaの“Freccia”が“矢”を、“Rossa”が“赤い”を意味しています。イタリア語は形容詞が名詞の後ろについて意味を成すため、くっつけると“赤い矢”となります。意味合いとしては西武鉄道のレッドアローやロシア鉄道のКра́сная стрела́と同じなんですね。Frecciarossaは元来客車牽引式のETR500というシリーズが全列車を担っていましたが、利用者の増加や新ルートの設定に伴って編成の増備が必要となり、そこで開発・導入されたのがこのETR1000(ETR400)ということになります。先ほどから2つの形式名を併記していますが、ETR1000というのはTrenitaliaが対外用に用いている名前になっており、実際の形式名はETR400として扱われているためです。Trenitaliaとしては新型車両たるこのETR1000は1000の数字をトレードマークに推していきたいらしく、多くの列車が設定されている中でもETR1000で運行されるものには特別に“Frecciarossa 1000(フレッチャロッサ ミッレ)”と名前をつけて明確に差別化がされています。また何を隠そうこの車両も日立によって製造・納入されていることは忘れてはなりません。初めに導入が計画された2009年には大手車両メーカーBombardier(ボンバルディア)と地元イタリアのAnsaldoBreda(アンサルドブレーダ)の連合チームが受注を獲得して順次搬入していったのですが、AnsaldoBredaが経営面で無理をしすぎた結果2015年に日立製作所によって買収されたことで、以降に納入される編成では車両デッキ部に掲示される銘板に“HITACHI”の文字が記されることとなりました。

 

少し画質が悪いですが“Hitachi Rail Italy S.p.A.”の文字がご覧いただけますでしょうか。契約締結時にタッグを組んでいたBombaldierは2021年に欧州最大手のAlstom(アルストム)に吸収されましたが、ETR1000の開発製造に関係する高速車両技術は日立に売却されたため、2024年現在も引き続き製造されている再追加納入のプロジェクトは日立が単独で進めています。

 

 結局長々話してしまいましたが、やはりこの格好良さの前には何もいらないでしょう。列車名に違わぬ赤を思い切り押し出した配色といい、スピード感を全力で伝えんとする縦長の前照灯と尾灯といい、実際に目の当たりにすると感動してしまいます。

 

 差し色として用いられている銀色もなかなかいい仕事をしています。明るいところでも暗いところでも映えるこの格好良さたるや!遠くイタリアまで来た甲斐が本当にありました。

Frecciarossa1000を五感で(?)堪能した後はヴェネツィア観光へとしゃれこみましょう。今回は交通関連の話をするのですが、自動車どころか道路すら存在しないヴェネツィア本島で交通の話を深められるのでしょうか?

 

 大丈夫です。深めようとせずともめっちゃ深い交通があるのでね。写真に写っている小さめの船舶は実はヴェネツィア本島内の移動の足として活躍する水上バス、Vaporettoなんです。Vaporettoはヴァポレットと読み、道路の無いこの地域で唯一の公共交通として重宝されています。

 

 ちょっと面倒くさくなったので適当なイラストで申し訳ないんですが、これがヴェネツィア本島の大まかな地図です。左上にある緑色の点がSanta Lucia駅で、島を2つに割っている大きな水路があることがわかります。これはCanal Grande(カナル・グランデ)といい、日本語では大運河と訳されることが多いです。そして赤く塗られた線が水上バスVaporettoのルートとなっています。島を一周する経路が描かれており、ヴェネツィア本島から離島へ向かうものを含めると系統は20を超えるでしょう。

 

 1枚目がバス停を水上から、2枚目がバス停を陸地から見た様子です。少しわかりにくいのですがバス停自体は単体で水上にプカプカと浮いており、陸地とは小さな橋で行き来する構造になっています。バス停にはちゃんと発車標も備え付けてあり、ゲートの横にあるカードリーダーに乗車用カードをタッチしてバス停に入るルールとなっています。運賃授受はバス停で無人の環境で済ませてもらうことで、乗務員はVaporettoの運航に専念できるようになっています。3枚目の通りVaporettoには経路の案内がサボでもって掲示されているため、普段我々がバスに乗る際にドア横の経由地表示を確認するのと同じ乗り方になりますね。4枚目はVaporettoの内部ですが、座席がたくさん並んでいて同時に背もたれ上部が握れるようになっていることから市内交通らしさが滲み出ていると感じました。

 

 こちらはヴェネツィア本島から北西に8kmほど離れたBurano島のVaporetto乗り場。カードリーダーは白い端末で、これにペラペラのカードをかざすとゲートが開くのですがこのゲートが何とも心許ない構造。日本ほどのモラル遵守意識が存在しないだけに匍匐前進とかしゃがみ歩きとかで不正に侵入する人はいないんでしょうか。

 

 こちらが乗車券として使えるカード、Venezia Unicaです。磁気券のような柔らかさながらタッチ利用が可能でなかなか便利です。ちなみに今回は1日間Vaporettoとメストレ地区-ヴェネツィア本島間の交通機関乗り放題のチケットをこのカードに読み込ませて使いましたが、なんと料金は€25!年々進む円安の影響もあり1EURが160~165円の幅で推移しているため、換算すると4,000円ということになります。市内交通一日乗り放題で4,000円とはなかなかパワフルな価格設定です。東京フリーきっぷがメチャクチャお得に見えてきますね。それでも観光客のほとんどはこの乗車券を購入してヴェネツィア本島を観光して回っているのが凄いことです。これだけ強気な値段設定でも観光客が大挙して押し寄せていれば確かにオーバーツーリズムが問題として扱われるわけだなというのが身に染みてわかります。

 

 それにしても水上バスが一般のバスと同じように高頻度で運行され、多くの乗客に親しまれているというのは凄いことです。そう考えると『天気の子』で描かれた水上都市の東京というのも少し見てみたくはあります。

 

 バス停の内部に掲示されている路線図。言われなければこれが水上交通の路線図だなんて予想だにできないでしょうね。

 

 ヴェネツィアARIAのアニメサントラを聞く夢も叶いました。気分はネオ・ヴェネツィア

 

 ここからゴンドラに乗って灯里たちウンディーネネオ・ヴェネツィアを案内してもらいたいものですね。まあ実際は漕ぎ手をウンディーネとは呼ばないんだけども!

 教会聖堂巡りは割愛しますが、今まで見たことない都市交通を実際に見て乗ることができて大変面白いものでした。確かにこれは観光客が全然減らないのも納得ですし、死ぬまでに一度は行っておきたい場所としてよく名前を聞くだけあるすごい街でした。

 

 メストレ地区に帰りますが、やってきたのは二階建て車両です。イタリア国旗の3色を用いた音符に並ぶ“Vivalto”の文字。どうやらイタリアの名作曲家ヴィヴァルディが名前の由来らしく、さすが芸術の国といったところです。

 

 高速鉄道のライバル同士、FrecciarossaとItaloの並びもなかなか壮観です。

 ヴェネツィアを楽しんだのはもちろんのこと、Frecciarossa1000を見ることができて大満足の一日でした。夜行列車の到着が8:30なので駅を出てそのまま観光をスタートできるというのも便利なものでした。ドイツからイタリアへ夜行列車で抜けて翌日イタリア観光を楽しむルート、大変おススメです。

 

7.イタリア(2,ミラノ)

 時差ボケが治っていないのか、22時くらいには眠くなるし5時に目が覚めてしまうようになってしまいました。まあ寝坊して乗るはずの列車を逃すよりはずっとマシですからいいでしょう。

 

 朝のイタリアの街並みです。昨日は一日中雨がしとしと降っていましたから、眩しく朝陽が差し込む光景は嬉しいものですね。そこに欧風建築とでも言うのでしょうか、見慣れない異国情緒のある建物の並びが大変新鮮に感じられます。

 

 ヴェネツィアを離れるべく朝7時半よりMestre駅にやってきました。発車標に並ぶ様々な都市名を見るとワクワクしてしまいます。

 

 ホームに向かうと別のFrecciarossaが停車していましたが、こちらが初代Frecciarossa車両として使われているETR500になります。先頭の機関車と後ろに続く客車らは統一的なデザインがなされているため、実際は日本人の我々が思い浮かべる電車と外観に大きな違いは無いようです。ただ先頭の機関車は重厚そうな雰囲気を醸し出していますし、ヨーロッパの客車牽引列車はすごいなと思うばかりです。ちなみにこの編成は現在行われている塗装変更作業が未施工のいわゆる旧塗装車。というのも元来Trenitaliaの展開する高速鉄道ブランドには散々話しているFrecciarossaとその下にFrecciargentoがあり、列車の速度や路線によって2つのブランドの棲み分けがされていました。ちなみに“Argento”が銀を意味するため、こちらは“銀の矢”と訳せばよろしいでしょう。300km/hで高速走行をするFrecciarossaと在来線にも直通して車体を傾斜、高速線Direttissimaでは250km/h程度のスピードで走るFrecciargentoの使い分けが10年ほど続いてきましたが、高速鉄道の新興私鉄Italoの台頭や列車名の紛らわしさが理由となり、Frecciarossaの大拡大に伴いFrecciargentoはそちらに吸収されることとなりました。実は両列車とも昔は同じひとつの列車名で運行されていたので、10年の時を経て再度1ブランド体勢に戻ったとも言えるでしょう。この列車名再編に伴って新Frecciarossaに供される車両はすべて新しい塗装デザインに変わることとなっており、今回旧塗装のETR500が拝めたことは大変ラッキーでした。

 

 新塗装では大幅に広くなる赤色の面積がこの旧塗装だと少し控えめになっていますが、台車周りの黒に近いグレーだったり軽さを感じさせんとするシルバーだったり大きく掲げられているTrenitaliaとFrecciarossaのロゴだったりが無茶苦茶格好いいです。

 

 ワイルドな大型の窓とそれを支える大型の梁がなかなかイカしますね。

 

 我々が乗る列車のホームへ上がってきました。FRECCIAROSSAの文字がぐちゃぐちゃになっていますが、この表示スペースに12文字を詰め込んだ結果と考えれば仕方でしょう。

 

 わざわざイタリアまで来たからにはETR1000に乗らずに帰る手はあるまい、と思い朝早い時間ながら“Frecciarossa1000”の記載のあるFrecciarossaを予約しました。昔からずっと憧れてきたETR1000にいよいよ乗れるんだとボルテージも最高潮になり...

 

やってきたのはETR1000ではなくETR600でした!なんでだよ!

 撮影時は動揺してしまいもはや写真もブレブレなのですが、

 

でもやっぱり表示器には予約した号数である9712が示されています。ハメやがったなTrenitalia!わざわざFrecciarossa1000の記載のある列車を予約したのに!

 まあ行程がありますし今から別の列車のチケットを再度購入してというのは現実的ではないため泣く泣くETR600に乗り込みます。この車両は今でこそ赤く塗られてFrecciarossaとして活躍していますがブランド統合前は何を隠そうひとつ下のFrecciargentoの名前で走っていたものになるのです。そういうわけで高速新線で300km/hを経験することもできないことになり、まあまあショックです。

 

 座席につきました。ヨーロッパの列車は座席の回転機構が無いことが普通であり、そのおかげで4人向かい合わせになっている席なんかが簡単に設けられるようになっています。予約したのも向かい合わせの座席で、大型のテーブルがあるため手荷物を置いてゆっくりできるのが助かります。ただこれ集団で移動するときならいいのですが、通路挟んで向かい側のボックスは4人とも知らない人たち同士だったらしくなんとも気まずそう。

 

 近郊/中距離列車の牽引では主力として活躍するE464機関車と並走しながらヴェネツィアを離れます。日本ではほぼ全く無くなった客車列車が当たり前のように存在するヨーロッパはやはり慣れません。ちなみにあちらの列車がいる線路は昨日朝我々が夜行列車Nightjetで通ってきた線路で、今から僕らの向かう西向きの線路とはすぐお別れになっています。

 

 乗務員が検札にやってきて、予約の2次元コードを提示して予約を確認するとサービスの水と軽食、おしぼりが渡されました。これは二等車ながらPremiumの車両に乗車した客に提供されるサービスになります。本来は二等車に乗車してパンなど食べようと思っていたのですが、予約の段階で運賃料金を見るとサービスの無い二等車よりもPremiumクラスのほうが安くなっている逆転現象が起きています。一般の車両と比べて安く利用できる上にスナックのサービスがつくとなればそりゃこっちを選びますよね。ちなみに緑色のパッケージがローズマリーを効かせたミニクラッカー、ピンク色のパッケージがクッキー寄りのビスケットという感じで列車内で摘まむには丁度良いものでした。

 

 超高速で走行するわけではないですが、Frecciargento時代から衰えていない車体傾斜機能でもって車体をぶんぶん振り回して走るのは爽快。車内で電話をし続けるおばちゃんの声もあまり不快にはならなのが不思議なものです。

 

 途中経由地ヴェローナではNightjet用のタウルスが留置されていました。EF510北斗星色のような感じで昼間は貨物牽引に使われるんでしょうかね?

 

 山を突っ切るような高速新線がまだ全国に整備されているわけではないため、景色の良い在来線区間を行くこともあります。綺麗な街並みの奥に湖、そして山々が見えるのが美しいです。防音壁が限りなく低くなっているのも助かるポイントですね。

 

 窓枠にはFrecciarossaのロゴが貼り付けられ、車窓の額縁としてめちゃくちゃ良いです。

 

 かわいいね。

 

 ミラノの手前2,30kmくらいになると高速線が整備されているため、なかなかいい速度でかっ飛ばすようになります。架線柱の間隔から算出するに速度は営業最高速である250km/hくらいで、車両の安定感の具合も優秀です。

 

 まあわざわざ計算せんでも車内Wi-Fiに繋げれば一瞬で現在の速度と位置がわかるのでこちらを見れば十分でしょう。

 もらったスナックを摘まみながらトランプに興じていると、気づけば間もなくミラノ到着というところ。乗車時間は2時間程度でしたが、途中高速線を走行して250kmくらいも移動させてもらって運賃は5,000円程度と破格です。時期によって運賃の上がり下がりはあるのでしょうが、2週間前に買ってこんな安く済むのであれば確かにヨーロッパでは鉄道の利用が多いわけですね。余談ですが予約の際Trenitaliaの公式サイトで検索をかけた上で、詳細を確認すると使用車両が簡単にわかるようになっています。最初からFrecciarossa1000とか記載しておいてETR1000ではないとかいう紛らわしいのをやめろよとは思いますが、イタリアに渡航される方でV250に乗りたいだの機関車牽引の静かな車両がいいだの要望がある方々は予めチェックされるのをお忘れにならないようにしてください。

 

 いろいろ言いましたが結局いい乗車経験になりました。ETR600の可愛らしいツラに免じて今回は留飲を下げさせてもらいましょう。

 列車が到着したのはミラノでは中近距離列車のターミナルであるMilano Porta Garibaldi(ミラノ・ポルタ・ガリバルディ)駅。もう一方の主要ターミナルであるCentrale de Milano(ミラノ中央)駅は頭端式ホームのみで構成されていますが、Garibaldi駅はスルーできる線路が配置されているため、一部の長距離列車は、特にミラノを経由地として運行を続ける列車はこちらの駅を発着するダイヤが組まれています。

 

 市内の移動には地下鉄が便利。ただ薄暗い地下鉄は治安に優れていないのも事実であるため、乗車する際は十分注意する必要があります。やはりスリがうじゃうじゃいるため、不用意に人を近づけないことが肝心であると思われます。

 ここで市内観光をする同行者と離れ、僕は用事を済ませに行くこととします。地下鉄の2号線をLoretoで降り、1号線に乗り換え、到着したはTurro(トゥッロ)駅。

 

 観光客が集うというよりは地元の人々が行き交う少し静かな街です。確かに観光名所が近所にあるわけではないので利用者もそこまで多いわけではないのですが、

 

その代わりに線路がめっちゃあります。これは南側にCentrale de Milano駅が、北側に巨大な車両基地が整備されているからで、線路自体は高架に敷かれているものの車両の姿を拝むことはできるようになっています。集合住宅の横を歩いて川沿いの道に出ると、何かしら車両が見えるはず。

 

 貨物列車が通過していきました。真っ赤な機関車にDBのロゴ、ドイツ鉄道の運行している貨物列車でしょうか。西欧の鉄道は線路幅が基本的に1435mmの標準軌であるため架線電圧の切り替えに対応していれば別の国へも直通できるようになっています。

 

 いろいろ通るものだな~と眺めているとETR1000の旧塗装車がゆっくり回送されていくところに遭遇!新塗装よりも横のデザインが強調され、窓周りの黒帯が流れるように先頭部にかかっていくこの車両を見ておきたかったのですが、塗り替えが進んでいる中で拝見できたことは幸運と言うほかありません。思わずミラノの住宅地で小躍りしそうになるほどの喜びです。

 

 角度が違うので比較が難しいのですが、新塗装では黒のラインが乗務員扉の先で斜めにカットされてしまっています。形式名が切り文字で表現されるようになったのはよいのですが、やはり旧塗装のほうが僕個人としては好みなだけにこれを見ることができて大変満足です。用事と称して車庫の近くまで来ましたが、この選択は大成功だったと言ってしまってよいでしょう。

 

 市街中心部へ戻り、市内観光を再開しましょう。さっき降りたTurro駅まで帰ってきましたがこの入口だと雨が地下に流れ込んできそうでちょっと不安なものです。

 

 待ち合わせまで少し時間があったのでPorta Garibaldi駅に寄りましたが、コンコースからホームへ上がる階段の隣には統合廃止となったハズのFrecciargentoのロゴが残されていました。いいのかな。

 

 これ自体が観光地として有名なCentrale de Milano駅にも寄ってみます。こちらはガラスを多く利用したアーチ型の屋根の下にFrecciarossaとItaloが並んでおり、また床は白のタイル張りでとても綺麗。駅構内での犯罪防止のため列車の近くへは有効な切符を持っている人しか入れませんが、それでも外から眺めるだけで圧倒されてしまいますね。

 

 再度地下鉄に乗車。黄色の帯をした3号線は他の路線とは車両がちょっと違うらしく、Azienda Trasporti Milanesiことミラノ市交通局(と便宜上呼びます)のロゴが6ドアステッカーと似ていることも相まってなんだか209系のようです。額縁スタイルとブラックフェイスが合わさればそう見えても仕方のないことかも?ちなみに奥の壁にはデジタル時計が設置されていますが、運転士がこれで現在時刻を把握して定時運行に努めるようです。

 

 市内観光の傍らトラムも記録しておきます。こちらは1500系ですが、製造されたのはほぼ100年前というえげつないレトロさです。しかもそれが普通に運用に入っているというのもびっくり。

 

 もちろん新鋭車両も走っており、こちらは20年ほど前より走っている完全低床車の7600系です。丸っこいフォルムが広電5100系 Greenmover maxに似ておりものすごく親近感が沸きます。またこの車両に限らずミラノのトラムは完全に一方向にしか走らず、終点ではぐるっと回転して折り返し運転をするピーチライナーと同じ方式を採用しています。

 

 なんかバスの後ろ側みたいですね。

 

 こちらには運転台を向かって左側に寄せたびっくりアシンメトリーの電車もいます。塗装が非対称というのはたまに聞きますが、車体そのものが非対称になっているというのはほぼほぼ見たことがありません。

 

 ほぼ最古参の1500系が来たので乗りました。木の温かみが都市部を走るトラムでは世界最古ともなるこの車両はなんと500両以上が製造されており、ミラノに訪問すれば簡単に見かけることができるでしょうから乗らない手はありません。

 

 なかなか揺れる電車でしたがここまで古い車両に乗れる機会はそうそう無いためいい経験になりました。

 ちなみにこの1500系はとさでん交通に譲渡されたことがあります。高知で路面電車事業を営むとさでんは1994年にミラノのトラムの1612号車を譲り受けているのですが、伝送系の部品に不具合があったのでしょうか、不幸にも実際に運用に入ることはなく車両が解体されてしまった過去があります。日本の土を踏んではいるものの乗客を乗せずに無くなったなんとも数奇な車両ですが、地元ミラノでは今でも主力として活躍していることがなかなか不思議です。やはり地元の空気が合っているんでしょうかね。

 

 市内観光を終えて宿へ向かいます。今回の宿泊地は値段を抑えるためミラノ中心地から少しばかり離れた場所を選びました。市内中心部から少し離れると地下鉄は地上を走るようで、最寄り駅も地上にホームを持つ構造となっています。やはり印象的な前面デザインが面白いですね。

 夕食はホテルの近くにあるピザ屋でテイクアウトして頂きました。やはりピザと赤ワインの組み合わせは最高です。ムシャムシャ貪りながらトランプを楽しんでいるとあっという間に夜になってしまい何とも残念なものです。

 

 ピザが無くなってしまい手持無沙汰だったため、近くのスーパーへ急いでバカでかティラミスを買ってきました。やはり本場のティラミスを食べずにイタリアを離れられませんからね。ただ誤算だったのが、3人で分ければ満足するであろうティラミスを買ったのにうち1人が飲酒のためかさっさと眠ってしまったこと。わざわざ買ったものを捨てるわけにはいかんと思う僕の精神のおかげで容器は空になりましたが、まさか18ブロックに分かれているうちの9つを食べる羽目になるとは思いませんでした。カカオ風味の粉が甘すぎなかったため何とか食べ進められましたが、糖分の取りすぎでしょうか、食べ終わったころにはベッドでそのまま眠ってしまいました。

 

8.イタリア(3,ミラノ)

 本日も早起きのため、6時には起床して身支度を済ませます。昨日のワインが残っているような気がしないでもないですが、まあまっすぐ歩けるので大丈夫でしょう。

 

 海外の街を暗い時間帯に歩くのはあまり推奨されませんが、人通りが少なくないことを考えればまあいいでしょう。時刻は6時半くらいですが、やはり空は薄暗く、日の短い冬を感じます。サマータイムの時期でもこの時間はそこまで暗くはないのではないでしょうか。

 

 昨日と同じ光景ですが暗いと印象が違ってきますね。

 

 東京の時間を聞いたらわざわざ教えてくださいました。皆さんありがとうございます。

 

 地下鉄に乗って15分ほどでCentrale de Milano駅に到着。昨日は見なかった駅舎の全景を眺めます。100年も前に設計された駅舎は当時のまま残っており、荘厳な雰囲気はミラノの陸の玄関口として十分すぎるほどの存在感を放っています。

 

 ここから乗るは列車ではなくバスとなります。まさかIVECOの車に乗る日が来るとはつゆにも思っていませんでした。お化粧でもしてんのかというくらい煌びやかなライトを備えるバスに乗車していきます。

 

 座席が汚すぎてびっくりしました。これは日本の交通を基準としているから汚く見えるのか、イタリア国内で比較しても汚い部類に入るのか、はたまた...

 乗り心地に関しては特段悪いこともなく、ミラノの街並みに名残惜しさを感じながら市街地を行きます。今回は遭遇することができませんでしたが、トロリーバスがどのような姿をしてどのように利用されているのかがとても気になるものです。

 

 バスに乗車しておよそ1時間、ベルガモにあるMilan Bergamo Airportに到着です。ミラノにはANAの就航が予定されているマルペンサ国際空港もありますが、あちらがアメリカやアジアなど遠距離便を担うのに対してこのベルガモ空港は欧州圏内でのフライトが多く発着するという特徴を持っています。鉄道でのアクセスに困難があるものの、周囲には高速道路がよく整備されているためバスや自家用車を用いる人が多いみたい。

 

 行先を眺めるとやはりヨーロッパの地名が多めです。乗り入れ航空会社はLCCがそのほとんどであり、欧州で強いRyanAir(ライアンエアー)の運航便がたくさん表示されていますね。

 

 利用者の数もなかなかのものです。モニターを駆使した動くサインがとても分かりやすくて助かりました。このスタイルがもっと広がればいいんだけどな。

 EU圏内を到着地に設定している便が大多数のため、保安検査を終えればすぐ搭乗口が見えてきます。とはいえ一部EUの外へ行く便も存在するのでそちらへ行く場合は端の方にある狭い国際線用搭乗口へ行かなければなりません。十数人しか並んでいない出国審査でパスポートを提示しましたが、何も聞かれずスタンプを押されただけで何とも拍子抜け。とはいえ出国を済ませていますからイタリアとはお別れです。

 

 日本の空港ターミナルはどこも白を床や壁に配した清潔感のある建物になっていますが、こちらは良い意味で空港らしくない空港をしています。どこかの商業施設と言われても納得してしまう雰囲気と言いますか、空港に対する認識の違いというのがあるような気がしたところです。

 

 搭乗も始まっていますからさっさと乗り込みます。格安航空らしくタラップで乗ることとなっていますね。

 

 2時間のフライトとなりますが、LCCにしてはそこまで狭く感じません。どうせ機内食など無いので眠って体力を回復しておきたいところです。

 

9.イギリス(1)

 降機10分後の写真です。フランスの上空を掠めて2時間、無事にイギリスに到着しました。ちなみに時差がある関係でイタリアを離陸したのが10時半で、今ここイギリスが
11時半になっています。なんか1時間得したような気分ですね。

 

 EU各国に加えて11ヶ国の入国者は電子ゲートを通って入国審査をパスできるようで、日本もそれらの国のひとつであるため有難くこの権利を使わせてもらい楽々通過します。日本の旅券の強さは侮れませんね。

 

 預け入れ荷物も無いのでサクっと出てきました。出口を通路形式にすることでカメラでの監視が強化できるのでしょうか?こちらもあまり見かけないタイプ。

 

 わかる言語で書いてある看板というのはとても助かるものです。気になったのは一番上の表記ですが、他国では国内線、domesticとして扱われるであろう区分は連合王国という特殊な理由によって“UK & Rep. of Ireland”と回りくどい表記になっているのが興味深いですね。

 ロンドン市内へは鉄道を使って行くこととします。ロンドンでは改札機にカードをタッチして入場しますが、有難いのがクレジットカードのタッチでも通れるということ。こうすればわざわざ紙の切符を発券したり半導体を用いるICカードを発行しまくったりすることがなくなるため大変エコです。

 

 卵型の断面をもつのがイギリスの電車の特徴というイメージだったため、実際に拝見できるとイギリスに渡った実感が沸きます。あとは肩部の細いオレンジ色の帯でしょうか。見たことのない異国の鉄道はテンションが上がってしまいますね。

 

 ロンドンからガトウィック空港までを直結するGatwick Expressです。真っ赤な車体に英国の鉄道らしさを醸し出す黄色の前面が派手で面白いものです。これに乗れば30分程度でロンドンの中心部へアクセスできますが、運賃が4,000円もするので日本人旅行者にはなかなか手が出ないものでしょう。

 

 そのためThameslink(テムズリンク)に乗って行くこととします。Thameslinkはロンドンを南北に貫く路線を有し、ここガトウィック空港や北部のルートン空港を沿線に持つことから利用者の数が大変多いのが特徴です。イギリスの鉄道初乗車の車両としては申し分ありません。

 

 車窓は割と殺風景な感じですが、道中は40kmほどのうち数駅にしか停車しないため結構飛ばします。営業最高速は160km/hとなっていますが乗車したときはそれに迫る150km/h程度での快走でなかなかの爽快さ。椅子が硬いため掛け心地はあまり良くないですが、爆速でロンドンへ走っているため心理的にはあまり悪いイメージもありません。

 

 薄暗い空と歴史ある塔の組み合わせがいかにも英国っぽい気がします。

 

 テムズ川を橋で渡るのかな~と思っていたらまさかの川の上にホームがあるとかいうとんでも構造でビックリしました。確かに武庫川とか東大島とかにも同じ構造は見られますが、これを世界規模の大運河の上で目撃することになるとは...

 

 ロンドン中心部ではこまめに停車しながらお客さんをさばいていきます。我々も宿に荷物を置きにいくためSt.Pancras(セントパンクラス)駅にて下車です。ロンドンは国内各方面へ向かう路線ごとにバラバラにターミナル駅が存在しますが、ここSt.Pancrasはロンドン中部へ伸びるMidland(ミッドランド)本線が発着する他に世界的に有名な国際特急たるEurostar(ユーロスター)がイギリス側のターミナルとして使用していることからも有名な駅となっています。

 

 Eurostarが発着することもあり正式な駅名にはInternationalの文字が付き、ご丁寧に空港コードまで付与されています。

 

 ちなみに正面から見た駅舎がこちら。駅にはホテルが併設されており、やはり壮麗な建築が目を惹きます。

 

 当然ロンドンですから2階建てのロンドンバスもひっきりなしに行き交います。赤い車体に黒を配す伝統を守りつつも、奥から2番目の車体のように窓ガラスを斜めに配置して新鮮さを出すセンスに脱帽です。またこの赤色がロンドンの建物に合うこと!頭の中に存在しているロンドンのイメージがそのまま存在するようです。

 荷物を置いて身軽になったところで大英博物館の見学と相成りました。無料で入れてあの規模の展示が見られるというのは驚きですが、ほとんど盗品だと思うと返してやれよと思わずにはいられません。

 

 見学を楽しみ、今度はEuston(ユーストン)駅へやってきました。Eustonはイギリスの西海岸を経由してスコットランドへ向かう一大幹線、West Coast Main Line(ウェストコースト本線)の始発地点となっています。なかなかクールな駅名看板にNational Rail(ナショナルレール)とTfL(Transport for London,ロンドン交通局)のシンボルが並びます。National Railは日本でいうJRのようなもので、路線によって運営企業が違いながらもそれら旧国鉄の路線群を総称してNational Railとなっています。例えるなら東京駅の改札口にはJRのロゴがでっかく掲げられているけれど東海道線宇都宮線総武線がそれぞれ別の企業によって運営されており、駅を共同で使用しているに過ぎないといった感じでしょうか。

 

 ホームに降りると可愛らしいツラをした特急列車が停まっていました。こちらはClass390といい、“Pendolino”の愛称を持ちます。イタリアの重工業メーカー、フィアットの技術で作られたこの車両ですが、振り子を意味するイタリア語“Pendolo”からつけられた名前の通り曲線では車体を傾ける振り子式列車として走行しています。というのもWest Coast Main Lineはカーブが多く、どうしても減速しながらの走行が必要となっていました。かねてより車体傾斜列車は開発検討がされてきましたが、技術が確立したことによりやっと2002年にこのClass390が登場。200km/hでの走行が可能となったことでイングランドスコットランド心理的距離を縮めることができたのでした。

 入場券の買い方がわからず近くで見ることはできなかったものの、ホームのすぐそばまで入れるとは思っていなかったため大変助かりました。丸っこくてかわいい電車です。

 今日はほとんど移動で時間が潰れてしまいましたが、明日は一日ずっとロンドンに滞在するためもっとロンドンの交通を見て回れるということでわくわくしてしまいます。やはり旅行中は早寝早起きに限りますね。

 

10.イギリス(2)

 King's Cross(キングスクロス)駅からおはようございます。ここKing's Cross駅は昨日降り立ったSt.Pancras駅のすぐ隣に所在しているのですが、主にイギリスの東海岸を通ってスコットランドへ向かうEast Coast Main Line(イーストコーストメインライン)のロンドン側ターミナルとして使われている駅になります。1852年に完成して以来、東海岸の主要都市ヨークやスコットランドの首都であるエディンバラへ向かう乗客の足として利用され続けています。駅舎に掲げられている発車標もなかなかの数であり、その多くが北の方向にある遠い都市を行先にしています。

 

 ロンドンではクレジットカードのタッチで改札を通れると言いましたが、やはり旅先ではご当地交通カードが欲しくなりますから買ってしまいました。こちらはOyster Card(オイスターカード)といい、日本のPASMOSuicaと同じようなものだという認識で大丈夫です。これを使えばロンドン在住の日本人男性っぽくなるでしょう。地元民擬態です。

 

 Oyster Cardを使ってKing's Cross駅に入場。近代的なかっこいい特急列車が停車していますね。

 

 ご覧くださいこちらの速そうな特急を!Class800というこの車両は日立がイギリス向け高速車両として開発・製造して使われているんです。アルミ製の車体は日本でもおなじみのA-train工法を採用して作られており、様々な電装系部品も日本と同じものが組み込まれています。また車両によっては車体が山口県下松で製造されているため、やはり日本と縁が深い列車であると言えます。さらに写真に写っている列車ですが、ノーズの部分に“AZUMA”と書いてあるのがわかるかと思います。East Coast Main Lineを走る列車のうち長距離特急を走らせるLondon North Eastern Railway(ロンドンノースイースタン鉄道)ことLNERは2019年に運行を開始したClass800らを日本語の“あずま”から“AZUMA”と命名し運行しています。名前の由来は路線名のEast Coast=東海岸であり、この名前は現地のイギリスの人々にも親しまれているようです。

 

 日本製の車両が海外で主力として活躍しているのがうれしすぎて思わず大量に写真を撮ってしまいました。最高速度は200km/hと新幹線と比べれば遅いですが、日本の在来線特急と大きく違わないくらいの短いノーズでなかなかいい速度を出している点は称賛に値するでしょう。生で見られたことがうれしすぎて写真をパシャパシャ撮っていたらLNERの係員に熱心に写真を撮るもんだな~と話しかけられてしまいました。これはいい機会だと思い僕が日本生まれであることやこの車両も同じ日本製であることを伝えたらなぜだか滅茶苦茶喜ばれてしまい、結局10分くらい話し込んでしまいました。係員によるとClass800は故障することも少なく、従業員や利用者からの信頼も厚いといいます。さんざん斜陽だと言われ続けている日本の製造業もやはり重工業となればまだまだ強い立場にいるんだなというのを1万キロも離れた異国の地で実感するのはなんだか不思議なものです。

 

 係員の赤いLNERジャンパーと同じく赤を纏うClass800がとても似合っています。

 

 ちなみにこの駅はLNERだけではなく、別の鉄道の列車も発着します。ちょうどやってきたのはGrand Centrai(グランドセントラル)鉄道のClass180です。この車両はClass800と同じく200km/hを出す高速性能を備える有望株でしたが、エンジンの不具合が頻発したために様々な会社によってたらい回しにされた残念な過去を持っています。最近はそこまで不調の話を聞かないのですがちゃんと使えているのでしょうか?

 

 右に停まっている車両はClass221、“Super Voyager(スーパーボイジャー)”です。同じような車体を持つ姉妹車にClass220 “Voyager”がいますが、こちらのClass221は車体傾斜装置を備えるちょっと豪華仕様になっています。少しあどけなさを残す前面デザインですが、こちらも最高速度200km/hを誇るパワフルな車両になっています。それぞれフランスのAlstom、ドイツのBombardierが製造元であり、製造国の違う車両たちが同じ塗装を纏って活躍しているのはなかなか興味深いと言えます。

 かれこれ30分以上うろちょろしていましたが、そろそろKing's Cross駅とはお別れして他の鉄道を見たいところです。

 

 主に長距離列車が発着する当駅ですが、西側の9,10番ホームには近郊列車の乗り入れもあるためこちらの列車で移動することが可能です。

 隣駅のFinsbury Park(フィンズブリーパーク)までの沿線には有名なサッカーチームであるアーセナルFCの本拠地、アーセナルスタジアムを拝むことができます。さすがイギリスでも1,2を争う人気チームなだけあり巨大です。写真を撮り損ねたのには大変後悔。

 

 数分の乗車で隣駅のFinsbury Parkへ到着しました。発車標を眺めたら次発の続行列車の欄にcancelledと表示してあります。日本では列車の運休など発生すれば一大事ですが、こちらでは日常茶飯事だからかあまり大ごとではないような感じがあります。というのもイギリスでは駅のメンテナンスのために封鎖するというのが当たり前に行われているんですよね。

 

 現にこの記事を書いている日にも駅の封鎖のお知らせが発表されています。どうやら駅係員の手配がつかなかったことから駅が営業不可となっているようですが、これが世界でも有数の大都市の地下鉄での話ということなのだからびっくりです。TfLは地下鉄だけでなく地上路線やバスなどを運行していますが、こうした事態に備えた冗長性の確保のために様々な交通機関を運営しているということなのでしょうか。日本とは基準が違っており文化の違いをひしひしと感じます。

 ちなみにアプリのスクリーンショットにも映っていますが、このフォントはJohnstonといいまして、おおよそ110年前にロンドンの地下鉄を運行していたUnderground Electric Railways Company of London Limitedことロンドン地下電気鉄道が自社のブランド力向上を図って導入された歴史を持っています。このフォントは数度のリニューアルを経ながら今日までTfLの様々な場所で目にすることができ、バーと円を組み合わせたシンボルマークと同様ロンドンの都市交通のトレードマークとして深く浸透していると言えます。

 

 バーと円を組み合わせたシンボルというのはこちら。ロンドンの交通に関係する様々な場面で見かけるこのシンボルマークは“The Roundel”。こちらに関してはなんと116年も前に使用が開始されたということもあり、もはやロンドンはおろか全世界にもこのシンボルより長生きしている人がいないというあり得ない事態になっています。CI(Corporate Identity)の概念が存在していなかった1900年代初頭より企業体のブランドイメージを重要視し、フォントやシンボルマークを駆使することで“ロンドンの街にあって当たり前”の文化を今でも根強く守っているロンドンの交通運営には先見の明がありすぎて驚きっぱなしです。

 話の内容が脱線してしまいましたが、ここからはUndergroundに乗りまくろうと思います。乗りまくるとなるとフリーパスを購入して使うというのが一般的ですが、TfLでは東京メトロのような24時間券の取り扱いをしていません。ただしOyster Cardやクレジットのタッチ決済でTfLの路線やを利用する際は一定の額まで支払えばその日はもうカードから運賃が引かれない制度が存在しています。ロンドン中心部のみの移動であれば高くても8.5ポンド、1,700円で乗り放題と考えると安くない気もしますが、他に移動手段が充実しているわけでもないので諦めて地下鉄に乗りまくるしかないでしょう。

 

 さっきKing's Crossで撮っていた設定のままシャッターを切ったらおしまいになってしまいました。ですがシルエットから伝わるでしょうか、ホームに並んでいる乗客と比べてものすごく列車の高さが低いように見えませんか?これがロンドンの地下鉄の最大の特徴です。1884年までに建設が行われたCircle(サークル)線までは地表から土を掘り返したのち一部を埋め戻してトンネルを建設する開削工法が採用され、比較的大きな車両(とはいえ地上の一般鉄道と比べれば小さいのですが)が使用されているのに対し、1890年のNorthan(ノーザン)線以降の路線は地下深くに狭いシールドトンネルを通して、そのトンネルにぶつからないギリギリのサイズの車両を用いるようになっています。特に前者をSub-Surface(地表近くに線路が通されているため)と、後者をDeep-Level(地下に線路が敷設されているため)と分類されることもあります。写真に写っているVictoria(ヴィクトリア)線はトンネルの狭いDeep-Level路線のうち唯一トンネルが少し大きく掘られているのですが、それにしたって屋根の部分が大きく湾曲するほどギリギリまでトンネルのサイズに合わせており、かつそれでも車体が低くなってしまっているんですね。

 

 この後に別のDeep-LevelであるPiccadilly(ピカデリー)線に乗ったのですが、ものすごくわかりやすく車体がトンネルのスレスレを通っています。また日本の地下鉄でもシールドトンネルを採用していることはありますが、そちらは車体よりもずっと大きなサイズで建設して天井に電力供給のための架線を引くことが一般的です。ただしそれでは掘削に余計な手間も費用も生まれますから、ロンドンでは走行用の線路二本に電気を受け取る線路一本と電気を返す線路一本を敷く四軌条方式が採用されています。確かに架線を設ける場所を用意したシールドトンネルでは車両の左右にデッドスペースが生じるため案外理に適っている方式かもしれません。

 自分が作業するときに使いたいので地下鉄の音を録音しておくこととします。走行音を録音するときは大声でしゃべる人が少ないといいなあなんて考えることが多いですが、実際海外では乗客の話し声もアクセントになってちょうどいいかもしれません。ただ車内の椅子に腰かけてスマートフォンを手持ちして録音していたのですが、連日の移動続きのせいか途中でめっちゃ眠たくなってきてしまいました。録音は開始してしまっているし今から始発駅に戻るわけにはいかないし、何より車内で寝るだなんて他の乗客にどんな悪いことをされるか分かったものではありません。心地よく揺れる車内で一人眠らないように頑張りながらスマートフォンを持ち続けます。幸いなことに電車は空いていたため、混雑に乗じて荷物をくすねんとする人がいなかったのは助かりました。

 

結果ちゃんと録音を終えられ、満足のいく音源を手に入れることができました。とても嬉しい。

 

 TfLの運行するライトレールのDLRを眺めたり乗り換えられる駅で毎回乗り換えたりするだけでもなかなか楽しめます。しかも電車が2分に一本くらいの超多頻度運転を行っているためサクサク乗車できるのも面白いところ。乗り放題の権利を乱用して乗りまくれるのが面白いです。

 

 11路線あるundergroundのうちでも特に変わった路線もあります。それがこちらのWaterloo & City(ウォータールーアンドシティ)線。94年までNational Railが運行していた異色の経歴を持つ路線です。

 

 経歴が特殊であれば運行形態も特殊、というか簡潔に言うと駅が2つしかありません。WaterlooとBankの両駅のみを結ぶだけの路線となっており、当然利用者もそこまで乗車していませんでした。

 

 とはいえただの2駅間を結ぶだけの路線というわけではありません。両駅間はロンドン地下鉄の平均駅間距離より少し長い2.5kmであり、特筆すべき点はこの区間にはテムズ川が流れているということ。テムズ川はロンドンが都市として発展するに大きな役目を果たした川であることは言わずもがなですが、川の南北に街ができたことから交通の面では少し邪魔者となってしまいます。そこでテムズ川には多くの橋やトンネルが建設されましたが、Waterloo & City線もそのうちの一つだったんですね。利用者があまり見られないとは言いましたがこれは時間帯によって変動するもので、朝方には大勢の通勤客を運ぶべく一時間に18本もの列車が発車する圧巻の光景を目にすることができます。

 また路線名はWaterloo & City線と少し長めになっていますが、これはWaterloo駅とCity駅を結ぶことからこの名前となっています。City駅は後年Bank駅へ改名したため路線名は実態と少し乖離していますが、駅名をすべて路線名に含めてしまうやっつけ感が面白く見えますね。

 

 車両はCentral線と同じ1992 Stock。しかし車内に巡らされたポールはすべてWaterloo & City線のラインカラーであるターコイズに塗られています。2駅間の大変短い路線でありますが路線の成り立ちゆえ他の地下鉄路線とも、また一般の鉄道路線とも線路のつながっていない独立路線となっているため専用車両が用意されることとなっています。

 

 隣駅ながら終着駅のWaterloo駅です。到着ホームの先には引き上げ線があり、乗客を降ろした小さい列車は急なポイントを曲がりながらそちらへ吸い込まれていきます。もっとも左の線路は普段列車が通行しないためレールが2本並んだシンプルな構成ですが、右方に見える線路は四軌条方式であるためすごくごちゃごちゃしているのが見えます。レールが倍の数あるということはメンテナンスの手間も二倍なのでしょうか、なかなか大変そうです。

 Waterloo駅では3路線に乗り換えられるため別のホームに向かおうとしたところ改札機が。改札外乗り換えなのかな?と思いOyster Cardをタッチすると6ポンドとかいうバカ高い運賃が引かれて横転しそうになりました。理由もわからず1,200円くらいを一回の乗車で請求される謎のイベントで大困惑。

 

 わけわかんねえぜ~とモヤモヤしながら駅の中を歩いているとこんな掲示が。どうやらWaterloo & City線に乗車する際は清算のために一度カードをタッチして経路を確定させなければならないらしいです。初心者には難しすぎるルールですが確認しなかった僕も悪いかなと思いしょげてしまいました。

 

 にしたって通路の壁に端末設置するだけって何事じゃ。こんなくだらないことで運賃をめっちゃ持っていかれたのは悔しいですが、皆さんはロンドンで電車や地下鉄に乗車・降車した際十分周囲を見回し、法外な運賃を課されないようにしましょう。ちなみに恥ずかしながらさっきも同じようなミスをFinsbury Park駅で犯しているため合計2,400円の損失。しかも後でタッチしなくていい改札(←???)でタッチをしてしまったために結局4,000円くらい無駄に支払ってしまったことになっています。皆さんはロンドンで電車や地下鉄に乗車・降車した際十分周囲を見回し、タッチする必要のない改札機にタッチしないようにしましょう。

 

 運賃を取られまくった点は悔しいですが、それでも適当に乗り換えて様々な路線・車両を体感するのは面白いものです。写真はBakerloo(ベイカールー)線の1972 Stockであり、現役のUndergroundの車両では最古参となっています。ですがこの車両も現在仮製造・試験をしている新型車両の2024 Stockが増備され次第置き換えられていく予定であり、狭いトンネル内を吊り掛けサウンドを響かせながら旧型車が走る光景はじき見納めとなってしまいます。現在Deep-Levelの7路線では6種類の車両が用いられていますが、新型車両2024 Stockはそのうちの3路線に配置される予定であるため、各路線を異なる形式が専門に受け持つ多様性も間もなく終焉の時を迎えていると言えましょう。

 

 今まで訪問したWCMLの起点駅EustonとECMLの起点King's Crossは実は600mほどしか離れていないのですが、そこから3kmほど、Undergroundで4駅西に行ったところには別の主要幹線のターミナルがあります。大きく湾曲した屋根と銅像が特徴的なこちらはPaddington(パディントン)駅です。Paddington駅からはグレートブリテン島南西部方面へ伸びるGreat Western Main Line(GWML)が発着しており、この路線を運営していたGreat Western Railway(GWR)の技師として働いていたブルネル氏の銅像が駅舎内に設置されているわけです。ブルネル氏はここPaddington駅の建設を主導した張本人でありますが、それ以前にGWMLへの広軌の採用や多数の橋の建設によりGWRの事業を成功に導いた超エリートであったことの方が設置理由としては正しいかもしれません。駅や橋梁のみならず運河や船舶の設計をこなした彼は2002年にBBCが行った“100 Greatest Britons(100名のもっとも偉大な英国人)”の投票では元首相チャーチルに次ぐ2位での選出をされており、文字通り“Greatest Briton”としてイギリス人には広く知られているのです。

 

 かつてのGWRは国有化によって消滅しましたが、分割民営化の折に旧GWR営業エリアは新しい企業が運営権を持つことになりました。数年おきに運営権の見直しがある英国の鉄道ですが、このエリアの鉄道に関しては“Great Western”の文字は消されることがなく、現在では国営化される前と同じ名前の“GWR”が車体に描かれています。また新生GWRは日立製車両Class800を始めて導入した鉄道会社であり、素早い置き換えのおかげで今ではほとんど全てのPaddington発着列車がClass800で統一されています。

 

 初導入から7年が経過した同車両、それゆえに少し色が剥げてしまっていますが乗降口ステップのHITACHIの文字がなんだか誇らしいですね。

 

 すでに100編成ほどが運行に供されているだけあって綺麗なClass800だけの並びもこの通り楽しむことができます。オールドスタイルな濃い緑の車体に警戒色の黄色が映えますね。

 ロンドンに来たからにはClass800を、特にGWRとLNERの車両を見たかったので目的は果たせて満足です。実は日本の鉄道模型メーカーがGWRとLNERのClass800を製品化していますのでそれらを持ってきて実車と並べて写真を撮る、なんてこともしたかったのですが高いしかさばるので断念。ただ実車を見たからにはNゲージのClass800も手に入れてみたいものだなと感じるものでした。

 Class800を楽しんだ後は別の趣味のため移動です。Bakerloo線で南東方向へ行くとウェストミンスター宮殿やビッグベン、ロンドンアイといった主要な観光ポイントの並ぶWaterloo駅周辺にアクセスができます。僕がさっき法外な額の運賃を引き去られた駅ですね。テムズ川を挟んでウェストミンスター宮殿と向かい合う場所の遊歩道はお気に入りの映画である“Mission: Impossible - Rogue Nation”で重要なシーンが撮影された場所であり、かねてより訪れておきたかったのです。

 

 アトリー長官になった気分でセルフィーを撮っています。実は作中でアトリー長官はジャケットを着てここのベンチに座っていたんですよね。そのためにジャケットを着て欧州まで来たという裏話もあります。

 

 ところでロンドンの電車おもしろ~いってのをツイートポストしたところ英国の鉄道について詳しく研究されている秩父路号(https://twitter.com/chichibugou)様よりリツイートリポストいただきました。大変嬉しく思います。秩父路号様のやられているサークル、英国鉄道研究会DoubleArrow様はイギリスの鉄道車両を詳しく紹介する英国鉄道図鑑を刊行、頒布されています。大変仔細な解説や貴重な写真群など興味深い情報が満載ですからイギリス渡航予定の方もそうでない方もぜひお読みになってはいかがでしょうか。

 様々な列車を眺めることができて大満足ですが、最後に行きたい場所がありますから再度移動します。Piccadilly線に乗車して降りるはCovent Garden(コヴェントガーデン)駅。

 

 UndergroundのDeep-Levelでは標準とも言える円形のシールドトンネルを生かしたホームですが、この駅はホームへのアクセス手段がほぼエレベーターに限定されている曲者です。列車を降りた乗客は迷路みたいな通路を通り、エレベーターホールからエレベーターに乗って地上を目指す必要がある変わった構造になっています。一応階段も無いことはないのですが、狭く急峻な螺旋階段をひたすら上る必要がありあまり現実的とは言えません。せめて改札階からホームへ行くときであれば階段でもアクセスはできなくないですが、少なくとも僕が見ていた10分間では階段を上ってホームから改札へ移動しようとする人はいませんでした。

 

 コヴェントガーデンには屋根付きの市場があり、特に文化的な商品の販売が多い印象を受けます。お洒落な陶器が並べられていますが生憎僕はそういった雑貨類には明るくないためスルーして市場を抜けます。

 

 屋根のあるゾーンを抜けて奥の方に現れたのはやはり古めかしい建物。ですが西陽のせいで照らされまくってクッソ見えにくい上部の文字列をご覧ください。London Transport Museumと書いてある通りこちらはイギリスの都市交通に焦点を当てて解説してくれる施設、ロンドン交通博物館になります。

 

 ただこのロンドン交通博物館は入場券の販売は無く入館には年間パスの購入が必要とのこと。学生だったのでほんの少し値引きされましたが結局22ポンドの年間パスを買う羽目になりました。その上入館記念品としてガイドブックとトートバッグを事前に購入した結果総額は29ポンド!後者は半分土産物ではありますが入館に5,600円払うことになるとは...

 

 入場すると早速東京の地下鉄路線図が待ち構えておりびっくりしてしまいました。初手に東京の地下鉄を出してくるあたりやはり地下鉄都市として東京があちらの方々にも浸透しているのでしょうか。

 

 あまり写真も撮らず展示を一所懸命読みながら回ってしまいました。やはり産業革命期に入ってからすぐ交通が発展した都市らしく、歴史を感じさせる展示車両がなかなか興味深いものです。特に右上などはUndergroundを蒸気機関車が走っていた時代の客車であり、トンネル内部が煙でモクモクになろうとも列車を動かさんとする当時のロンドンの人々の熱意は想像し得ないレベルのものでしょう。また過去の遺産を紹介しているに留まらず、つい最近である2022年に開業したTfL運行の近郊鉄道路線、Elizabeth(エリザベス)線の解説コーナーもあり、運転体験コーナーには多くの子どもたちが列をなしていたのが印象的でした。

 

 見学を楽しんだ後はミュージアムショップへ行きましょう。様々な商品が並んでおりどれも素敵なものでしたが、特に気になったのがこれ。Undergroundの車両の座席モケットを用いたクッションです。なかなかいいお値段なので買うことはできませんでしたが、日車や総車のようなグッズがこちらにも存在するのが面白いところです。

 

 結局色々買ってしまいました。ポンド高のせいもあって5,000円くらいでしょうか、どれだけTfLにお金を落としているのかわからなくなってきました。ちなみに手前にあるMIND THE GAPはUndergroundをモチーフにしたカードゲームです。また後でプレイすることがあるので感想はそちらで述べておきます。

 ロンドンの鉄道を満喫した後は夕食ですが、偶然にも同じ時期にロンドンに来ている仲間がいたため落ち合うことに。適当にビッグベンを背景に写真を撮影した後にパブでビールを嗜みますがこのビールの美味しいこと美味しいこと!

 

 一人だけなんでくそでかグラスで飲んでいたのかはわかりませんがめちゃくちゃよかったです。そのうち東京でもHUBとか入りそうです。

 

 フィッシュアンドチップスをつまみにビールを飲んで談笑していたらもう夜になってしまいました。来てくれた友人と別れて宿の近くにあるKing's Crossに帰ってくると見慣れないClass800がいます。これはHull Trains(ハル・トレインズ)所属の編成であり、イギリスでは珍しい黄色の警戒色を廃した車両になっています。紺と黒で塗られた車両はシックでクールに見えます。

 観光よりも鉄道交通に重きを置いた一日でしたがなかなか面白いものでした。鉄道が好きな人間の初ヨーロッパにイギリスをおススメできるくらいであり、もう一日くらい自由に動きまりたかったなというのが今日の感想です。さすが変わり者島国と言うところでしょうか。ぜひまた行きたい街になりました。

 

11.イギリス(3)

 昨日はビールを3杯も飲んだためすぐ寝てしまい、起きたらもう6時!急いで荷物を纏めて宿を発ちます。

 

 2月のロンドンは緯度が札幌よりずっと北であることもあり日が短く、6時でもこんな真っ暗。それでも二階建てバスが元気に走り回っているのはさすが大都市ロンドンです。電灯に照らされながら我々が向かうはSt.Pancras駅。国際特急Eurostarのロンドン側始発駅St.Pancrasは朝から大盛況です。

 

 イギリス国内の列車であれば一般の鉄道のように改札を通過して列車に乗ることができますが、Eurostarではそうは行きません。イギリスはシェンゲン協定未加盟国どころかEUから離脱している国ですから、イギリスから出る場合は出国審査を済ませてから列車に乗らなければならないんですね。一応乗車手続きは30分前には締め切るということになっており、7時に発車する列車に乗る我々は実はまあまあギリギリのタイミングです。列に並んで乗車手続きを済ませますが要は簡易的な飛行機の保安検査と言った感じでした。チケットの二次元コードをゲートにかざして通過した後に手荷物をエックス線に通してイギリスの出国審査とフランスの入国審査を一度に済ませるという流れ。ただ手荷物検査は問題なく済んだのですがフランスの入国審査がなぜかやたら時間のかかる代物です。早ければ15分程度ですべて終えて列車の発車を待つのみなのですが、今回は30分強かかったので間に合うか少し不安になるくらいでした。

 

 イギリスの出国審査はパスポートを見せるのみでしたが、フランスの入国審査ではスタンプを押してもらえます。これをロンドンの真ん中でもらうのも不思議なものですが、ふつうは飛行機のマークが描かれる右上のところに機関車のイラストが描かれているのが特別っぽくて何とも嬉しいものです。

 

 乗車が始まっていました。あまり時間は無いので周囲を見回す程度しかできませんでしたが、奥のお店は免税店。ほとんど飛行機と一緒なのでまるで飛行機に乗るような感覚に陥ってしまいますが、

 

待ち構えているのは列車なんですよね。我々の乗るのはEurostarの車両のうち比較的新しい形式であるClass374です。最近新しくなったEurostarのロゴマークが窓の横に掲げられていますが、古いほうが好みだった身としては複雑なものです。

 余談ですが、写真を見ていてホームにとある物が存在しないことに気づいた方はいらっしゃるでしょうか。まあ気づいたら相当鋭いとは思うのですが、このホームには黄色い線が存在していません。日本と同じようにイギリスのプラットフォームには列車と乗客の接触事故を防止するために黄色いラインを引いて注意を促す文化がありますが、それがこのホームには見当たりません。というのもEurostarは乗客がホームで列車を待つことができないという特性があるんです。列車保安上の観点から発車の20分くらい前にならないとホームへ入ることができず、当然ホーム上で列車の入線を眺めることもできません。つまりEurostarは乗客の待つホームに到着することがないため、わざわざ黄線をホームにペイントしなくてよかったということです。

 

 乗車時間が長いわけではないので車内は自分の椅子にたどり着くまで少し時間がかかります。前の人が荷棚に荷物を置くのを待って自分の席へ。

 

 ほぼ満席ということで座席の写真を撮ることはできませんでしたが、3人での移動ということで今回もFrecciarossaの時と同じくボックス席を指定して座っています。写っているのは朝食としたラップとお菓子とモンスターです。特にこのモンスターはルイス・ハミルトンとのコラボ商品であり、最速320km/hで走行するEurostarの車内で飲むにはちょうどいいのではないでしょうか?関係ないか。

 

 列車が発車してしばらくはロンドン市街地を走りますが、十数分すると速度が上がってきました。High Speed 1(ハイスピード1)という名前の高速線が2007年に開通したことでロンドンからユーロトンネルまで300km/hでの走行が可能となっています。というかそれまでは第三軌条の在来線で160km/hが限界だったと言いますから、正直そっちのえげつない区間を通ってほしくはありました。せっかくいいスピードで走っているものの、窓がなんだかきったねえので景色がそこまで綺麗に見えないのが残念です。

 イギリスにいる間に大便をする“ブリテンブリブリ”とかいうしょうもないことをしながら乗っていると、間もなくドーバーというあたりまで来ました。

 

 最後のイギリスの景色はこんなのでした。頼むから窓を拭いてほしいものですね。

 

 車内表示モニターは停車駅が多い列車では効果を発揮しますが、始発駅と終着駅の2駅にしか停まらない列車では手持ち無沙汰なのか同じ情報を延々と流しています。トンネルトリビアと称して列車の最高速やユーロトンネルの長さ、深さを紹介している様子ですね。そう考えると2国間を結ぶトンネルが50kmくらいなのに青函トンネルが53.85kmなのはなかなかおかしなものです。ちなみに右下は乗降口の側面にあったSiemensのロゴ。ヨーロッパでは製造した企業が自身のロゴを足元に表記するのが普通みたいですね。

 ユーロトンネルに突入する際は少し減速をしたみたいです。トンネル区間とその前後では最高速度が160km/hに制限されているらしく、その速度が青函トンネルと同じなのは単なる偶然なんでしょうか?

 

11.フランス(1)

 暗いし朝早かったからちょっと眠いな~と思っていたら少し眠ってしまい、トンネルを出て明るくなったところで目が覚めました。入国審査を先に済ませていますから、これで名実ともにフランス入国です。

 

 フランスの鉄道は左側通行ですので、上下線が交差して気づいたら右側通行になんてことはありません。というか窓が汚いのが残念過ぎて景色を写そうと頑張るのをやめてしまいました。ロンドンと違って少し青空も見えるのですが、これでは見えたものではありません。

 

 パリに近づいてくると景色も面白くなってきました。こちらは留置されているTGVと旧型のEurostarですね。両車とも大まかな分類ではTGVとなりますが、手前に停まっているTGVはDuplex(デュープレックス)という全車二階建ての車両、奥のEurostarが一階建てであるため車両の高さの違いが簡単に理解できます。高速線を走行中は対向列車も早い速度で動いているためほとんど認めることはできず、パリ周辺まで走ってきてやっと車窓の電車を見ることができました。様々な国を味見程度に見て回る数日を過ごしていますが、やはり鉄道であれば降り立つ前にその街をグラウンドレベルで眺めることができるので良いですね。

 

 Paris Gare du Nordに到着しました。Gareが駅、(Du)Nordが(~の)北を表すため日本語メディアでは専らパリ北駅と呼称されています。ロンドンで既にフランスの入国審査を済ませているためホームに降りたらそのまま出口より出ることができますが、なんだか違和感があります。

 

 向かいのホームには旧型EurostarのClass373が停車中。こちらの形式はイギリス国内を第三軌条方式で走っていたため台車に集電靴が設置されていましたが、現在は必要が無くなったため撤去されてしまったよう。少し残念なことです。

 

 旧型はTGVの技術をほぼそのまま用いているため、客車は一部を除いて連接台車となっています。高速車両ながら車体間ダンパーが丸見えなのが嬉しいですね。

 

 一転こちらは我々の乗ってきたClass374です。Class373と異なり動力分散式の電車となっており、先頭車にも乗客を乗せることができるため編成定員が増加している点が特徴です。またスタイリッシュなのかどうなのか判断しがたい丸々とした前面形状も興味深いところ。このノーズで320km/h走行をしてくれるのもすごいものですね。

 

 別のホームには深紅のTGVの車両がいます。 こちらはSNCF(フランス国鉄)とベルギー国鉄が共同出資して運行している高速鉄道ブランドのThalys(タリス)用車両です。TGVSNCF単独の運行であり、基本フランス国内のみを担当しているのに対し、Thalysはパリから東へ向かい、ベルギーを経由してオランダやドイツへ運行されており、国際列車として見做されています。ところでノーズの真ん中部分にEurostarのロゴマークが存在しますが、これは昨年2023年の1月にThalysがEurostarに吸収されたため。Thalysの説明をしましたが、統合の影響でこの真っ赤な列車もEurostarとなっており車体にはThalysのロゴや文字は見当たりません。残ったのは車体の色だけであり、ドーバー海峡を渡るEurostarは灰色に青と黄色の帯、ユーラシア大陸のみを走行するEurostarは赤色と判断する材料に過ぎなくなっています。

 

 一歩引いて駅全体を見渡しますが、やはり主要駅らしい高い屋根が印象的です。このパリ北駅はヨーロッパで最多の利用者数を誇っていますから、やはりそれに見合った巨大な駅舎を備えているということでしょう。まあ同様の利用者数である高田馬場駅が合計5面6線の狭いホームで頑張っていると考えるとそうではないのかもしれませんが...

 

 パリ市内を移動するため乗車券を買います。とはいえパリの地下鉄であるMétro de ParisはICカードの利用が基本。ICカードの名前はnavigo(ナヴィゴ)であり、写真の一枚は旅行者向けのnavigo easyという種類になっています。昨日ロンドンで使ったOyster Cardとは違いカードに切符をチャージして使う方式のため、残高が余ることが無いのが有難いものです。

 

 navigo easyに一日乗車券の購入情報を読み込ませて入場。Métro de Parisことパリメトロさん、2024年の2月5日から9月9日にかけておよそ7か月のストライキをするぞ!みたいなニュースがありましたが無事動いているようで助かりました。このメトロは地上路線と異なり右側通行を採用しています。またパリメトロの特徴がゴムタイヤを採用している点。

 

 車体下部にゴムタイヤが存在するのが見てとれます。ただし走行をゴムタイヤに任せきっているわけではないのがパリメトロのミソ!手前の線路を見ると鈍く光るレールがありまして、ゴムタイヤの内側に装備された鉄車輪を一緒に用いる併用式のためかなり不思議な走行をします。それに加えて車輪の外側には電気の流れている給電レールが存在するため、ゴムタイヤの走行路2つにレール3本という聞いたことのないごちゃごちゃさが面白いところです。それにしても車体の色が白にミントグリーンの組み合わせで何とも可愛らしいものです。

 

 こちらが車内の様子になります。驚いたのは乗車するや否やサックスの演奏が聞こえてきたこと。車内BGMが存在するのかな?と思いましたがそれにしてはなかなかの音圧ということもあり、見回すと本当にサックスを演奏している人が!トンネル内に響くモーターの音にサックスの音色、フランス語の車内放送にパリジェンヌの陽気なしゃべり声の組み合わせが他の都市で見られない独特の雰囲気を醸成しておりとても面白いです。ただパリは治安の問題があるため、浮かれすぎるとスリに手回り品を奪われるおそれがあることに十分留意しましょう。

 

 途中乗り換えてコンコルド広場に到着しました。奥の方にうっすら凱旋門が見えますが、この間の道路があまりにも有名なシャンゼリゼ通りになります。

 

 「世界で最も美しい通り」の別名をいただいているだけあり歩いているだけで気分が晴れやかになるとは思ってもみませんでした。これは現地で体感しないとわからない感覚かもしれません。

 

 道中の様子はカットしまして凱旋門です。鳥居くらいのサイズなのかな~と思っていただけに実際のデカさにびっくり。

 

 そしてこちらはエッフェル塔。詳細は省きますが詐欺師みたいな人たちがたくさんいて面白かったです。これもパリの一風景だと言えるのかもしれません。

 

 エッフェル塔セーヌ川のすぐそばにありますが、近所にはメトロが高架橋で川を渡るポイントがあります。薄橙色に統一されている建物に豪華な装飾のなされている橋、白にミントグリーンのメトロ車両の組み合わせがとても美しい!と言いたいところですがそれらを完全に無視してしまうほどきったないセーヌ川で思わず笑ってしまいます。結局テムズ川も汚かったですし実際神田川飯田橋や水道橋の近辺ではあまり綺麗とは言えない状況ですから、案外都市の河川というのはこんなものなのかもしれません。

 

 地上であれば車両が詳しく見られて助かります。こうしてみると車体はそんなに大きくなく、軽めの色合いのせいかテーマパークの乗り物にも見えてきます。なんだかおもちゃみたいですね。

 

 こちらはゴムタイヤを備えていない路線の車両ですが、やはりおもちゃみたいな見た目です。古めかしい駅ホームにちっこい車両が映えます。

 

 再度地上に目を移すと、メトロと同じ配色の連接バスがうじゃうじゃしています。パリの交差点は急ハンドルを要する場所が多いですが、難なくうねうねと車体を揺らしながら通過していくバスの姿も一見の価値あり。

 

 様々な観光地を巡りながらメトロに乗っていると古そうな車両がやってきました。車内にはアルストム製の車両と言うことで銘板が掲げられていますが、現在の綴りであるALSTOMとは少し違う“ALSTHOM”の文字列になっています。小豆色とでも呼べるのでしょうか、おばあちゃんみてえな紫色の配色が古さを感じさせますね。

 

 ロンドンの地下鉄は“The Roundel”の中にUndergroundと書いてあるマークが入り口に掲げられていましたが、パリの地下鉄ではシンプルにMetroと書いてあるところが多い印象です。今年で開業124年を迎えるパリメトロは歴史を重んじる意識と更新をギリギリまで先送りにしたいケチくさ精神の両方が感じられますね。

 

 メトロがパリ市内とその周囲数km圏内で完結する路線を管理している一方、市街からパリ市へ乗り入れる鉄道も同じく地下を走っており、それがRéseau Express Régionalという鉄道。一応地域圏急行鉄道網と訳すことはできますが、長ったらしいですし現地でも専らRERと呼ばれています。メトロは短い駅間で多くの列車を走らせる必要から短編成で多くのドアを持つ電車が多く使われていますが、RERは市街からの乗客を一度にたくさん乗せる役割のため、大柄で二階建て、ドアが一両にふたつついている電車を走らせています。また駅を狭い間隔で設けるスタイルではないために、パリ市内ではメトロに対して快速のような使われ方をされています。地下鉄でありながら大量輸送に特化した二階建て車両を使っている変わったスタイルはもしかして小池百合子東京都知事マニフェストとして喧伝した“満員電車ゼロ”の理想形なのでは?と思わずにはいられません。

 

 なんか古めかしいですが、ドアの色はTGVに合わせられた赤~紫のグラデーションになっています。にしても圧迫感を覚えるほどのデカさがすごい。

 

 とりあえず今日見たいものは見終えたのでそのままパリの街をそぞろ歩くわけですが、なんか駅につきました。パリでは地上の鉄道が方向ごとに別の駅を使っており、ここMontparnasse(モンパルナス)駅はパリから見て南西部方面の列車のターミナルとして機能しています。ガラス張りの駅正面に一文字一文字が独立している駅名はさすがお洒落の国とでも言えましょうか。

 

 ホームの様子を見に行くとものすごくイカつい機関車が停まっています。フランス名物の“ゲンコツ機関車”の一種であるBB22200型というのがこちらで、最後に製造されたゲンコツ機関車がこの系列になっています。

 

 奇妙なほどに凸凹している前面がゲンコツ機関車のゲンコツ機関車たる所以です。かつて北総鉄道に所属していた7000形も前面の形状からゲンコツ電車と呼ばれていましたが、こちらはその比じゃないくらい。実はこいつが本当の爆乳機関車なのでは?

 

 メトロに乗って宿に向かいます。一枚目のロゴがRATP(パリ交通公団)のロゴマークになります。なんだかUndergroundのThe Roundalに似ている気もしますがどうなんでしょうね。他はフランス語での掲示になりますが、生憎フランス語を専攻していないため全く読めません。ドイツ語であればアルファベットを書いてある通り読めばどうにかなるのですが、フランス語は本当にさっぱりわからなくて逆に面白いです。ただ旅行でフランスを訪れるのであればフランス語の読み方くらいは覚えて行ったほうがよほどいいのかもしれません。困るレベルでわからないのも厳しいものがある。

 

 ベッドで晩酌しながら昨日買ったカードゲーム、Mind the Gapをお試しプレーします。ルールはUNOみたいな感じですが、駅名のカードを出す際に駅名を読み上げる必要があるのが変わっています。これが慣れてくるとなかなか面白く、実際に聞いたアナウンスの如くイギリス英語で“The next station is~?”と言ってみたり、特別カードの文面も正しいアナウンスの通りの文章で言ってみたりしてみるのが楽しいです。現地に行った後にプレーすることで「あ~この駅で乗り換えたな~」と感じるのも旅の復習のようで楽しめました。今日はフランスということでワインの瓶を開けながらワイワイしていたらもう25時!明日は自由時間なので何をしようか迷いながら寝るのでした。

 

12.フランス(2)

 ゆっくり起きてホテルをチェックアウトして再度パリ中心部へ向かいます。まったりクロワッサンを摘まんでから行ってみたいところに行くことにした今日はメトロに乗るところから始まります。

 

 メトロやRERに乗れる一日乗車券は昨日までですので、今日は一回券を都度購入することにしました。引き続きnavigo easyを使うのですが、駅の券売機でのチャージは治安に不安のある場所では怖いものですよね。そこで使うのが公式アプリの“Bonjour RATP”です。このアプリを使えばスマホにnavigo easyをタッチして、Apple Payで購入ができるんですね。手元でチャージが完結できるのはすごい!と思いましたが、モバイルSuicaであれば端末一台でチャージもタッチも買い物も済ませられますからその面では日本の交通系ICカードのほうがよほど楽やもしれません。

 

 細い通路の先に停まっているメトロの車両です。古さがありながらも純白のタイルを使うことで駅構内を綺麗なように見せるRATPはなかなかの手練れというか、やはりさすがは花の都パリです。

 

 メトロ10号線に終点まで乗車し、目的の場所まで行きます。ところで突然見慣れた看板があって驚きましたが、ここから旧帝へ合格する子どもたちは現れるのでしょうか?

 

 やかましい一般道を歩きます。写真に撮った場所は舗装がしっかりしているため歩行に問題はありませんでしたが、ところどころにあった土のままの歩道はぬかるみまくっており白スニーカーが茶スニーカーにランクダウンしてしまいました。ふざけやがって。

 

 1.5kmほど歩き交通量の多い道路を曲がると今度は木々の生い茂る公園に入りました。にしてもサイクリストとランナーの多さったらびっくりでした。水曜の昼間っから公園で運動に興じることができるなんてパリジャンはどういう仕事をされているんでしょうか。甚だ疑問です。

 

 この見覚えのあるレースコース、どこかで...?

 

 荘厳な入口がお出迎えしてくれています。こちらは競馬ファンでは知らない人のいない世界最高峰レース、凱旋門賞が開催されるパリロンシャン競馬場です。平日ということもありオープンはしていませんが、競馬場自体を見られるのであればぜひ見てみたいなと思いやってきました。

 

 入口を過ぎて少し行くとコースとスタンドの見えるコーナーに着きました。コースで言うと第一コーナーの付近でしょうか、左に見えている看板を見るに写真撮影ポイントとして整備されているのかもしれません。異国の地で馬に賭ける気はなかったためこれが見られただけでも大満足です。

 

 記念撮影。

 

 この後はルーヴル美術館を見学する計画になっているため、森林の中を進んでいきます。ロンシャン競馬場のある一帯の森林地域はBois de Boulogne(ブローニュの森)といいまして、内部には数箇所の庭園を持っています。というか森が広すぎて内部に道路が通っているザマです。

 

 池の奥のほうに細い建物が見えますが、実はこの森の中にはもう一つ競馬場があります。2kmも離れていない場所に別の競馬場を作るってどういう事態?と思われてしまいそうですが、こちらは障害競走専門のオートゥイユ競馬場。日本では平地がメインで合間に片手間で行われるイメージの強い障害競走はこちらでは専用コースが作られるくらい人気なんですね。行われるレースもG1であるパリ大障害を始めとして重賞が多く、その人気ぶりが垣間見えます。

 

 木の枝が邪魔で見えづらいですが辛うじてラチが確認できます。日本馬は縁のないオートゥイユ競馬場ですが、いつの日か重賞を勝つような馬が出てきてほしいものですね。

 

 楽しく歩いていましたが思ったよりちゃんとウォーキングになっていました。ロンシャン競馬場へのアクセスにはバスが使えますから、皆さんはバスでアクセスされるのがよろしいでしょう。

 

 なぜかパリにはフランクリン・ルーズベルト駅があるのですが、壁面の駅名標にカタカナが書いてあって一瞬目を疑いました。ただフランス語での発音はカタカナの通りではないので、この表記に意味があるのかは内緒です。

 

 逆ビッグサイトです。芸術作品には造詣が深くないですので、詳しい鑑賞のポイントなどを知りたい方はそういった動画やブログをご覧くださいまし。

 

 全然関係ないけど松ぼっくりがあったので写真を撮っちゃいました。パリにも落ちてるんですね松ぼっくり

 

 パリを離れるべくやってきたのはGare de l'Estことパリ東駅です。昨日降り立ったパリ北駅とは数百メートルしか離れていませんが、東というのは“パリから東の方へ向かう”という意味であり、パリの東にあるわけではなくむしろ北にあるのが変わっています。

 

 昔から見てみたかった機関車、BB26000型が停車しており大喜び。ゲンコツスタイルからの脱却を図ったこの形式は少し流線形を意識したかのような形状をしており、シンプルながら機能的なナリがとても魅力的です。日本では貨物列車の行き交う路線でないと機関車を目にすることは難しいですが、客車牽引列車の多い欧州では主要駅で簡単に機関車を眺められて有難いですね。

 

 乗る電車は既に入線していました。ICEのうちでもフラッグシップにあたるICE3、その新鋭であるDB所属407形です。

 

 昨日乗ったEurostarのClass374と同じVelaro(ヴェラロ)ブランドということもあり、車体形状は変わりません。違う国の列車なのに同じ車両に乗ることになったようでなんだか損した気分。

 

 ですが一歩車内へ入ってしまえば別物です。所々に木目を用いており、清潔感のある白い壁がICEらしさを全開にしています。座席の掛け心地も申し分なく、3時間程度の乗車でも疲れることはあまりなさそうです。

 

 フランスは駅弁文化圏でないためハンバーガーを食べることにしました。ちなみにこの3つでおよそ2,000円。高すぎるだろ。

 

 フランス国内の区間には高速線であるLGVが整備されており、人様の線路ではありますがほぼ全速力でかっ飛ばします。GPSを用いた速度計アプリを開かなくても今のスピードを表示してくれるのは便利ですね。

 

 スペースが無くて便所に花瓶が置けないのでイラストで代用するとかいう悪あがきを見せられています。姑息な手段だこと。

 

 命名:ICEくん

 

 ドイツの電車の中でイギリスの地下鉄のカードゲームすんなよという話ではあります。にしても面白いですね、駅名や放送のフレーズに精通しているロンドン市民だと我々以上に楽しめるのかも?

 真っ暗で何も見えないのでMind the Gapに夢中になっていたらフランスを出国しそうです。国境跨ぐ機会でずっと寝てしまっているので今回ばかりは起きて景色を見たかったのですが、結局車窓は虚無なのであっけないものでした。

 

13.ドイツ(3)

 ドイツ区間に入ったら検札みたいな人が車内に乗ってきたのですが、どんなお客さんとも長めに話していらしたのでどうしたんだろう、と思っていましたが我々のところへ来た時に答えがわかりました。乗ってきた方はDeutsche Bahnの職員さんで、どうやら検札をしながらついでに列車利用状況のアンケートを聞いて回っているよう。今回乗ったパリ-フランクフルト線はTGV運行のSNCFとICE運行のDBが協力して運行していますが、このアンケートの結果を参考にして今後のダイヤを考えるのだそうです。遅延だらけ運休だらけのDBにもこんなに親切な方がいるんだなあと感心していましたが、この人もストライキに協力して列車の定時運行に支障をもたらしているのでは?と思ったらなんかどうでもよくなってきてしまいました。

 

 Mannheim Hbfに間もなく着くよ~と放送がかかりましたが、まさか時間通りに到着するとはとビックリ。とはいえ駅の直前にはポイントが多いですし、そこで入線待ちということも往々にしてあるため油断はできません。

 

 まさかの定着で唖然としてしまいました。やればできんじゃんDB!乗り心地もよかったですし信頼が完全に復活しました。これで最後帰りのフランクフルトまでに遅延しないといいな~

 

 Straßenbahnで拠点へ戻ります。この横向きの座席は座ると他人の通行の阻害になるため要らないのではないか?

 

 途中で突然降ろされて追いついてきた後続の電車への乗り換えを強要されましたが無事帰ってこられました。合計3000kmほどの移動をして、7日間で5ヶ国を巡る面白い旅です。純粋に今まで雲の上の存在であったヨーロッパの都市を訪問できたこともよかったですが、やはり様々な国の都市交通に実際に乗ることでどういう特性があってどういう使われ方をされているのか、それを肌で感じることができたことがかけがえのない財産であるように思います。この記憶を基に日本の公共交通を更に深く学べるでしょうし、まだまだ交通の見聞は広め甲斐がありそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14.ドイツ(4)

 ごめんなさい終わったみたいにしましたがまだもうちょっとだけ続きます

 欧州各国を鉄道と航空路で巡ったあとは4日ほど滞在期間が残っていたため、レンタカーでドイツ国内をうろうろしたり、適当にマンハイムの近所を訪ねてみたりしたので適当に写真とコメントを載せていきます。

 

 翌日マンハイムの隣町、ハイデルベルクに向かう際に乗車したS-Bahnの車両です。S-Bahnは地域内輸送に特化した輸送サービスのためDBと地域の交通企業がタッグを組んで運行しています。このあたりはRhein-Neckar-VerkehrことRNVが管轄しており、そのお陰で一日乗車券を買えばRNVの関わっている路面電車もバスもS-Bahnも共通で乗り放題となっており便利。DBの列車は基本的に赤色を塗っていますが、この車両が白と黄色なのもそういう理由...かと思いきやこの列車はbwegtというブランドの交通らしく詳しいことは全然わかりません。

 

 乗車したら席が埋まるほどの混雑具合でしたが、無事着席して列車が動き始めました。ただ駅を発車してすぐ機外停車。車内ではみな静かにしており(何もないところで長時間停まってても普通なんだな)と考えていたら今度は150km/hで爆走し始めました。確かに踏切もないし線路が直線だからそれくらいのスピードで走ってもおかしくはないのですが、なんか極端な走り方をする列車です。

 

 ハイデルベルクのアクセス駅、Heidelberg Hbfからバスに乗車して街の中心部へやってきました。先ほどこの地域の交通を担っている企業体として紹介したRNVはRがライン川を、Nがネッカー川を表しています。写真に写っている川はそのうちのネッカー川で、この周辺一帯の地域のランドマークとなっている川を名前に使っているのは地域性が感じられて興味深いものです。にしてもこの景色のドイツっぽさたるや!まさか国旗が掲揚されているとは想定外でしたが他人に紹介するときに滅茶苦茶わかりやすいのでちょっと助かっています。

 

 まさにヨーロッパらしい商店街です。平日夕刻ながら多くの人が道を歩いておりこの活気はこちらにしかないような気がします。みなが楽しそうにいるため僕も浮かれ気味かもしれません。

 

 携帯ショップに用事があったため寄りましたが、茶目っ気のせいで松のやで撮ったロースかつ定食の写真を携帯ショップに置いてあったiPhoneAirDropで転送してきてしまいました。今頃ここに来ているドイツ人を困惑させている筈です。

 行きは鉄道で10分と少しで来た道を、帰りは路面電車を使ってトコトコ帰ります。マンハイムハイデルベルクの間には畑や草原が広がるのみではありますが、途中に点在する家々へはStraßenbahnでのアクセスが便利そうです。にしても停留所の無い場所では低床車ながら80km/hくらい出すので揺れがすごい。広電のように市街地では路面を、郊外では専用の線路を走るのですが、宮島線が60km/hで全力なのと比べると、それ以上のスピードでぶっ飛ばすパワープレイ感がすごいです。

 

 RNVの路面電車は基本的にオレンジ色に塗られていますが、最新形式(と思われる)車両は白車体にRNVのイメージカラーである紺とオレンジを纏っています。気持ちながら流線形を描いている車体に近年流行りの細い灯具類がなかなか格好いいです。

 写真には路面電車と歩行者くらいしか写っていないことにお気づきになりましたでしょうか。ここはトランジットモールに設定されている区域のため、路面電車に歩行者、あと特別に許可を受けた自動車のみが乗り入れられています。図らずもトランジットモールを経験することとなったわけですが、現在宇都宮市LRTのライトラインを宇都宮駅東側へ延伸すると同時に駅から市街中心部にかけての2km程度をこのトランジットモールにする計画を打ち立てています。実際は街そのものの特性とトランジットモールの相性の良し悪しに依るとは思いますが、日本でもトランジットモールが実現すれば街に人が増えて活気が生まれるかもしれません。これに似た雰囲気は旭川駅から北へ向かう買物公園通りでもありますから、宇都宮でもトランジットモールが実現すればいいなと楽しみになってきました。

 

 レンタカーで車を借りたらドイツ車になるかな?と期待しましたがフランスのシトロエンでした。まあ運転できるたけ文句は言えません。

 

 マンハイムからアウトバーンでかっ飛ばしてやってきたはミュンヘンBMWに縁があるのでミュンヘンに所在しているBMWの博物館を軽く見てから市街に躍り出てきました。写真は現地のStraßenbahnとすれ違う様子です。富山の市内電車っぽい見た目がシンプルながらいいですね。

 

 中心部にある駅の入口にはS-Bahnのマークの他にUと記載されています。こちらはU-Bahn(ウーバーン)を表すロゴになっています。頭文字のUは“Untergrund”と綴りますが、つまるところ地下の電車、地下鉄になります。近郊列車S-Bahnと地下鉄U-Bahn、それに路面電車Straßenbahnとバスが縦横無尽に行き交うのはさすがドイツ3番目の都市です。

 

 途中に美しさが評価されているノイシュバンシュタイン城に寄りました。行くまではちょっとした城だろ~としか思っていませんでしたが実際見るとあまりの美しさに脱帽です。山の中腹に建つ城の建物は荘厳であり、奥に見える家々と湖が城の引き立て役としてとてもいい役割を果たしています。

 

 翌日はマンハイムの近くをウロウロ。踏切で見かけた列車はライトの多い低床車でしたが黄色に赤という派手さがいい仕事をしています。

 

 中世の街並みが現在でも残るローテンブルクです。まさか自分がこんな街並みを己の目で見る日がくるとは思っていませんでしたが、実際目の当たりにすると写真で見る以上に圧巻で素晴らしいの一言です。こんなものが今でも存在しているんだなあ。

 

 北の方にある中規模の都市、ヴュルツブルクにはビールの宣伝ラッピングをしているStraßenbahnがいます。大手を振ってビールを宣伝できる文化は羨ましいものです。結局これにつられてスーパーでビールを買ってしまう僕も僕なんですが...

 

 古城から眺める街も絶景です。建物の壁や屋根の色から容易に西欧であることがわかります。ステレオタイプ通りの光景も愉快なものですね。

 

 ドイツの高速道路、Autobahn(アウトバーン)に速度制限が存在しないことはあまりにも有名ですが、借りているコンパクトカーでも160km/hで真ん中の車線を走れるのはとても楽しいです。空いている区間であれば200km/hで走行してしまうこともあり、写真はあまりのアウトバーンの過激さに運転手以外の全てが荒ぶっている様子になります。自動車が新幹線に肉薄するほどのスピードを出しているのも驚きですが、それが市販のコンパクトカーでという事実の方がよほど驚きですね。

 

15.ドイツ(5)

 マンハイムから空港のあるフランクフルトまで行くにあたって列車を検索していましたが、少し様子がおかしくなっています。

 

 初日にマンハイムへ向かうとき乗車したREは一般の切符がいつでも同じ額で発売されているため、大体4,000円くらいになる額が表示されています。

 

 ただしこちらが妙です。所要時間はREの半分くらいである上に運賃は40%と箆棒にお値打ちな額で切符を発売しているこの列車の種別欄を見るとTGVと書かれています。当然このTGVというのはフランスのSNCFが運行している高速列車のTGVを表しており、近郊列車の普通より高速列車のほうが安い逆転現象が起こっていることになります。いいのかSNCF、いいのかDB。

 

 買えちゃいました。前日に酔っぱらいながらではありますが切符を確認しておいて助かりました。にしてもメールで発車時刻や到着時刻、ホームに所要時間まで教えてくれるのはやさしいですね。しかも今回乗れないかと思っていたTGVに乗車できるとなればこんなに嬉しいことはありません。まあ高速線は走行しないので大して速くはないんだけども。

 

 最後に荷物をまとめて空港へ向かいます。この色のStraßenbahnともお別れだと思うと寂しいものです。最後に中央駅を背景にパチリ。

 

 “Ⓢ Bahn Rhein-Neckar”の文字がよいですね。日本では白と黒で塗られた鉄道車両をほぼ見かけないので新鮮です。

 

 もちろん赤い車両もいます。僕個人としては赤いS-Bahnのほうがドイツの鉄道らしくて好きですね。オーバル形のライトも親しみやすさを表しているかも?

 

 ドイツの駅にフランスの列車が来ているのが違和感マシマシですがほぼ定刻で到着してくれました。それなりに高いホームから見ても威圧感を覚えるこの車両は現行TGVの主力車両として使われているDuplexです。前述の通り客車の全車両が二階建て構造となっており、客車8両で500人ほどが乗車できる輸送力に重きを置いた車両になっています。ただし新幹線Maxと異なり編成全体の出力はパワフルになっているため、320km/hの超高速での走行が可能という優等生になっています。買った切符は自由席のもののため車内に入ったら空いている座席を確認して着席します。全車指定席ながら予約されていない区間ではだれでも座れることとなっていますが、有難いことに西欧では窓の上のあたりに座席の予約状況が表示されるため安心して座ることができます。

 

 こちらが車内の様子です。車両が登場してまだ15年は経っていませんから古臭いなとは思わないのですが、なんかちゃちいように見えてしまいました。これはひとえに同区間を走るICEの落ち着いた雰囲気が好きなだけに比較してしまうからかもしれません。車内ではみな静かに過ごしており、こうした列車に落ち着いた感じがあるのは洋の東西を問わず、と言ったところでしょうか。

 車掌が来たので印刷した昨日の切符を見せます。SNCFとDBは互いに協力して列車を運転していますから恐らくドイツ国内ではTGVながらDBの乗務員が検札業務をしているのでしょうが、切符に記載された僕の名前を見て察したのでしょうか、検察の終わりがけに流暢な声で“ありがとうございます”と言われて我々は吃驚しながら狼狽えてしまいました、まさか西欧人に日本語で話しかけられるとは思いませんでしたしね。何とか笑顔でありがとうございますと返してからは再度TGVの乗車を楽しみます。

 

 楽しもうと思ってたらまた機外停車をし始めました。いくら列車がフランスのフラッグシップでも運行はドイツクオリティです。

 

 景色に文字通り代わり映えなくなってしまったため車内を見回しています。日本と違って座席の転換を考慮していないためがっしり設けられた座席の台座は変な感じです。にしてもなんで汚れの目立つこの色の部品を採用したんでしょうか。

 

 フランクフルトの玄関口、Frankfurt(Main) Hbfに到着です。ドイツ国内でも有数の大都市なだけあり、駅にいる人の数もすごいです。開業135年を迎えるほど歴史あるこの駅は立派な屋根を持っており、これぞヨーロッパのターミナル駅という風格です。ちなみにここはGare de l'Est(パリ東駅)と、あと東京駅と姉妹協定を結んでいるらしく、探すと記念プレートがあるのだそうです。僕が見つけられなかったので写真はありません、残念!

 

 あまり見るものが無いと言われてしまっている街中を軽く見てみますが、Straßenbahnの色が派手です。広告ラッピングのせいでどれが本物の塗装なのかわからないのですが、どれも明るめな色合いで見ていて面白いですね。

 

 早々に街を見終えてしまったためひとりで中央駅へ戻ってきました。ちょうどTGVとICE3が並んでいるところだったため夢中で写真を撮りまくります。やっぱり5~6m程度の流線形で新幹線並みの速度を出すのが信じられませんが、騒音を気にしなくていい環境にある外国ならではなのかもしれません、まあ日本の環境の方がよほど特殊かもしれませんが...

 

 別のホームには振り子式高速電車のICE Tがおります。最高速度は230km/hと控えめではありますが、それでも乗り心地の良い傾斜装置のおかげで在来線の輸送サービスを引き上げた実力があります。ICE3がフラッグシップであるとすればICE Tは名脇役

 

 それにしても丸っこい前頭部がめちゃくちゃ可愛らしいです。こんな見た目で230km/hも出してくれたら十分というか、逆に300km/hとかで走ってたらかわいくないので控えめなくらいがちょうどいいです。肩部の少しすぼまっている部分なんかも流れるようにライト周りへ続いていてデザイナーのセンスが光ります。

 

 あとはこちらのICE3でしょうか、こちらは一見ただのICE3ですがライト間のロゴがDBとは違っています。この矢印をモチーフにしたロゴはオランダ鉄道のものであり、ドイツ-オランダ間の直通運転を念頭に、DBと同一仕様でオランダ鉄道が所有しているレア編成です。例えていうなら野岩鉄道6050系土佐くろしお鉄道の2000系のようなものでしょうか。

 

  編成ごとにつけられる愛称もオランダの首都であるアムステルダム。関係ないけど窓に反射するTGVの帯がカッコいいですね。

 

 時間に余裕をもって空港へ向かいましょう。乗車するのはこの真っ青な車両のREです。フランクフルト到着初日にもStadion駅で目撃しましたが、見た目に似つかわしくなく気動車になります。

 

 前面の青色は段々と三角形状に分かれていき、最後白になる特殊なグラデーション。純粋に帯を巻くのではなく、車両全体をキャンバスの如く独創的なカラーリングにするのは日本と変わりませんね。

 

 Frankfurt am Main Hbfよさらば!我が旅団堂々撤退す

 

 車内にはクロスシートが並び掛け心地も悪くありません。ただ荷物置き場が全然なく、通路にスーツケースを置いておく必要があるのは苦しいところ。本当に空港を経由させていい列車なんでしょうか。

 

 ホームより車両の床の方が低い奇妙な気動車で帰ってきましたフランクフルト空港。まさか最後がこんなよくわからない車両になるとは思いませんでしたが西欧の鉄道を大満足することができました。

 

 頻繁に離陸するもんだな~と思ってしまいそうですが、これは真っ赤なウソ。DBはルフトハンザ航空とコードシェアをしているため、DBの運行する列車がルフトハンザの運行の如く記載されているだけで実際は半分が鉄道、残りが航路になっています。全くおかしなものです。

 

 さっさと出国したため写真をほぼ撮っていませんが、ドイツ残留組(一人)と別れて飛行機に乗ります。機内食がビビンバなのがびっくりですが、無料でビールをサービスしてもらえてうれしいものです。

 

 仁川国際空港では1時間半後の便に乗るため今回は韓国に入国せず乗り継ぎです。日本語が書いてあるのが嬉しいですが、まだ家までは時間がクソかかると思うと溜息。

 

 こういうタイプの乗り継ぎは初めてですが、ここにも日本語があり安心してしまいます。再度保安検査を通過するとは知りませんでしたが当然問題なく通過していますよ。

 

 あとちょっとです。まあ帰りの飛行機はすげえ疲れており爆睡できたため成田までもすぐ着くような気がしますけどね。

 

16.日本

 2週間の渡航を終えて日本に帰ってまいりました!長い期間でしたが日本が恋しくなることも西欧に飽きることもない丁度いいくらいの旅行でした。

 

 無事荷物も帰ってきてロスバゲ回避となりました。安心アンコールワットですね。

 

 ありがとうございます。

 

 行きはスカイライナーだったため帰りは成田エクスプレスを選びました。ダイヤ改正も迫っていますし新塗装車ばかりになっていますね。

 

 日本のお米が食べられるということで成田空港駅のそばのファミマでミニ弁当とチューハイを購入して車内でいただきます。ちょっとしたご飯ごときに使い捨ておしぼりまでつけてくれるのは有難いという他ありません。

 

 大崎の構内を通過しています。これは成田エクスプレスに乗らないと通れない山手貨物線区間になります。埼京線の電車が懐かしい。

 

 一時間ほどで渋谷に到着しました。さようならナリエク。スーツケースを荷物置き場から回収して下車です。ここからは乗り換えて帰宅となります。

 ようやっと家に帰ってまいりました。計15日間の旅行で大きなトラブルもなかったのは幸運だったと言えるでしょうか、色々と知らない世界を体験できてとても面白い旅行となりました。やはり普段見慣れない都市交通の光景が実感として自分の知識として組み込まれたのはとても良い経験だったと言えましょう。国ごとに全然違っている鉄道を毎日新鮮な気持ちで見ることができる西欧、鉄道好きとしてとてもおススメできます。僕は偶然きっかけを得て渡航しましたが、日本の鉄道を粗方理解しつくした方はぜひ行ってみてはどうでしょうか。

 大変文章が長くなりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?計6万字超えとなってしまいましたが、お読みいただいた皆様の参考になればこれ以上の喜びはありません。また近日中に投稿する次回の記事もよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

 

おまけ

 

 

こんな縮尺のログは初めて見ました。